高市早苗首相を扱うYouTube動画で、7月のある週の批判的な分類の再生数が、肯定的な分類を上回った。共同通信の8月30日配信が伝えた分析である。ただし、これは動画の分類と再生回数の比較であり、有権者の支持・不支持が逆転したという結果ではない。旧稿には、二つの分類の合計を上位100本全体と取り違えた箇所があった。分母と集計範囲をそろえ、数字から何が確かめられるかを読み直す。
1. 逆転したのは、対象動画の分類別再生数だ
共同通信配信の本文で示された二つの週の値を並べた。以下は報道の集計値であり、編集部が動画を再収集して再分類した結果ではない。週の日付も報道の対象週の表記に従う。8149万回と1474万回は別の分類・別の週なので、同じ一群の動画がそのまま減った数字として比べない。
共同通信8月30日配信(神戸新聞NEXT掲載)の集計値を基に作成。再生数は人数や支持者数ではなく、公開記事に示された分類別集計である。
| 報道の対象週 | 肯定的:本数・再生数 | 批判的:本数・再生数 |
|---|---|---|
| 1月26日~2月1日 | 42本・8149万回 | 1本・127万回 |
| 7月6日~12日 | 23本・801万回 | 30本・1474万回 |
前の週は8149÷127=約64.2で、肯定的な分類の再生数が批判的な分類の約64倍だった。後の週は1474÷801=約1.84で、批判的な分類が肯定的な分類を上回る。この計算が示すのは、この抽出・分類の条件の中で二つの大小関係が変わったことだ。
同じ100本の中でも、42本が肯定的だったという本数比率と、その42本が8149万回を集めたという再生数は単位が違う。本数は各動画を一つずつ数え、再生数は多く見られた動画に大きな重みを与える。どちらの比率を話しているかを決めずに、支持が何割という言葉へ移してはならない。
2. その他を除いた合計は、全体の総量ではない
初稿は上位100本の総再生数が8000万回台から2000万回台へ縮んだと説明した。しかし足していたのは肯定的と批判的の二分類だけだった。計算は8149+127=8276万回、801+1474=2275万回であり、その他に分類された動画の再生数を含んでいない。
分類が100本を三つに分けるものなら、その他の本数は前の週で100-42-1=57本、後の週で100-23-30=47本となる。これは本数の差引きで、残った動画の再生数を推計する式ではない。残りの本数が分かっても、一本ずつの再生数がなければ全体の合計は求められない。
二分類だけの合計は2275÷8276=約27.5%で、約72.5%減となる。ただしこの値から首相動画全体の関心が四分の一に落ちた、国民が飽きたとは言えない。上位100本全体よりさらに広い、抽出外の動画も含めた総量は、なお別に確認する必要がある。旧稿の関心全体の低下という結論は撤回する。
7月の批判的分類1474万回を二分類合計2275万回で割ると約64.8%だ。一方で上位100本全体の再生数を分母にした批判的分類の割合は、その他の再生数が不明なので算出できない。64.8%を動画全体の批判割合や有権者の不支持率として表示しないことが重要である。
3. 一本当たりへ分解しても、視聴者の心理にはならない
合計は本数と一本当たり平均の掛け算へ分けられる。7月の肯定的分類は801÷23=約34.8万回、批判的分類は1474÷30=約49.1万回となる。平均の比は約1.41倍で、合計の約1.84倍より小さい。本数にも23本と30本という差があるためだ。
この分解は、合計の差を一本の人気だけに帰さないための編集部の計算である。ただし平均は中央値ではない。少数の大きな動画に引っ張られているか、各動画が似た水準なのかは、個別の分布を見なければ分からない。本稿は動画一覧や個別再生数を取得していない。
また30本は対象の上位100本に入った批判的分類の数で、投稿された批判動画の全本数ではない。上位に入る割合の変化を、制作の総量が同じ割合で増えたと読むこともできない。7月に誰がなぜ作ったか、収益を狙ったか、何人が考えを変えたかは、この集計だけでは確認できない。
4. AIの三分類は、発信者の扱いも含む
共同通信の説明は、2025年12月29日以降の首相関連動画から週ごとの再生数上位100本を抽出し、生成AIで肯定的、批判的、その他へ分類したというものだ。その他には中立・判定不能だけでなく、首相本人、政党、報道機関等の投稿も入れ、記者も内容を確認したと記す。
ここは読解上の境界となる。その他の全てを中立な論調と解釈できず、肯定・批判の二分類が全発信者の賛否をそのまま表すわけでもない。発信主体による扱いと論調による分類が組み合わさる以上、分類名だけで政治動画全体を代表させることは避ける。
記者の確認があった点を落とし、AIだけが判定したかのように書くのも不正確だ。一方、モデル、入力した情報、指示文、曖昧な事例の処理、記者がどの範囲を確認したかの詳細資料は今回取得できていない。詳しい基準が公表されていないと一般に断定するのでなく、本稿で再検証できた範囲を示す。
再現するなら、検索語、対象チャンネルや言語、対象期間、収集日時、削除された動画の扱い、通常動画とShortsの内訳をそろえたい。対象週の視聴増分なのか、そこで公開された動画の観測時点の累積値なのかも重要だ。確認した短い配信本文だけでは、その詳細までは確定できない。
5. 現在の再生数を見ても、当時の集計は戻らない
YouTube公式ヘルプは、一定期間の視聴者の推定人数を表すユニーク視聴者数と、視聴回数を分けている。同じ人が複数動画を見れば、動画別人数を足してもチャンネル全体の重複を除いた人数と一致しない。まして複数の投稿者の公開再生数を足しただけでは、異なる人が何人見たかは分からない。
視聴回数の定義にも時点がある。公式説明ではShortsは2025年3月31日から再生開始回数を数え、最短視聴時間を求めない。さらに2026年8月24日から長尺動画・ライブを含む全形式を再生開始回数で数えると説明している。1月と7月の対象週だけを見て、この後日の変更が集計差の原因だったとは言えない。
今回の分析の観測日、形式別内訳、変更前後の値の扱いは未確認である。今見える再生数を拾い直しても、当時の保存値をそのまま再現できるとは限らない。公式ヘルプは指標の検証による遅延・調整や無効再生の除外も説明しているため、全ての再生操作が必ず一回ずつ加算されるという旧稿の説明も改める。
動画の論調と、その動画を見た人の賛否は別だ。反対の意見を確認するため、議論を知るため、偶然表示されたためなど、同じ再生数に異なる行動が入り得る。これは解釈上の可能性であり、今回の視聴理由を調査した結果ではない。再生回数から支持率や感情を直接換算しない。
独自の視点――逆転を見る前に、分母の外を確かめる
編集部は、この結果の価値を世論の代用ではなく、対象動画の構成を点検する入口に置くべきだと考える。今回の再計算は、批判が肯定を上回った事実と、関心全体が減ったという旧稿の結論が、同じ証拠からは導けないことを示した。その他57本・47本を式の外へ出したままでは、全体の話にならない。
さらに合計と本数と平均を並べれば、本数の多さと一本当たりの再生数の高さを分けて読める。次の検証では、三分類全ての合計、形式別の内訳、観測時点をそろえた値、上位動画への集中度を併記したい。これは本稿の検証提案であり、集計の誤りや操作を認定したものではない。
政治の評価を深めるには、動画で取り上げられた政策の内容と実績を、別の根拠で確かめる必要がある。批判が伸びたから政策が失敗した、肯定が伸びたから成果が出たという順序を逆転させない。注目の数字は問いを生む。だが問いへの答えまで、その数字に代弁させないことが大切である。
訂正・補足(2026年10月11日):肯定+批判の8276万回/2275万回を上位100本全体の総再生数とした説明を訂正。その他は本数57/47本と差引けるが再生数は未確認で、関心全体が四分の一へ縮んだという結論を撤回した。記者の内容確認と本人・政党・報道機関等のその他分類を補足。分類基準が一切公表されていない、全再生が必ず数えられる、制作者の収益動機や政策の失点・視聴者の心理を証明できるという断定は改めた。数値は共同通信の報道集計であり原データを独立再分析したものではない。
[文・構成=編集長 麻生 矩暉]
出典とメモ
- 共同通信8月30日配信・埼玉新聞掲載で各週の42/1本8149/127万回、23/30本801/1474万回、上位100本の抽出、三分類、本人・政党・報道機関等のその他扱い、記者確認を照合。数値表は同配信を基に作成。動画一覧、検索・取得条件、全週系列、モデル・指示・精度、人手確認の範囲、その他再生数、週増分/累積と観測日、削除・広告・形式別内訳は未確認。
- 独自計算:8149/127=64.1654、1474/801=1.8402。二分類合計8276/2275万回、2275/8276=27.4891%、減少72.5109%。その他本数100-42-1=57、100-23-30=47。批判の二分類内比1474/2275=64.7912%は全100本の再生数比ではない。7月平均801/23=34.8261万回、1474/30=49.1333万回、平均比1.41082。元の分類集計に基づく算術で、分布・支持率・視聴動機・政策効果の検証ではない。
- YouTube公式・ユニーク視聴者数で推定人数と動画間の重複を確認。Shorts作成ヘルプで2025年3月31日の再生開始基準、指標カウント方法で2026年8月24日全形式への変更・遅延調整・無効再生除外を確認。現行説明を当時の未確認の収集時点へ遡及適用しない。
- 旧参照の共同通信Yahoo配信、朝日新聞配信(旧掲載先は2026年10月13日確認時点で閲覧不可)、北日本新聞、Share News Japanは履歴として保持。全旧本文、原動画・全データ、歴代政権比較、視聴者属性・賛否、推薦・広告・収益の因果関係は未検証。2026年10月11日確認。独自の視点は編集部の再計算・分析であり、未実施の視聴者調査や取材を装わない。










