永住許可のガイドラインは、2026年10月1日に改定された。8月に公表された案への意見募集はすでに終了している。今確かめるべきなのは、申請日による適用の違いと、収入・年金の数字が何を比較しているかである。「日本人世帯の平均収入」という言葉だけで、一人の年収に全国平均の額を当てはめることはできない。公式文書を読むと、世帯の範囲、算入する収入、将来の見込額という複数の判断がある。本稿は8月の案を扱った旧稿を、改定後の説明に更新する。
1. 意見募集は終了し、10月1日に改定された
e-Govの案件315000140では、案の公示日は8月4日、受付締切日時は9月4日0時0分、結果公示と対象が定められた日は10月1日である。結果文書は募集期間を8月4日から9月3日までと説明し、提出意見は5180件としている。9月4日の終日まで受け付けたという意味ではない。旧稿の「締め切りの前にしか動かせない」という案内は、現在の手続き状況と合わない。
結果ページの「提出意見を踏まえた案の修正の有無」は「無」とされる。ただし、これは全ての意見を行政が無視したという意味ではない。別紙には意見の要旨と入管庁の考え方が示されている。意見の件数は賛成・反対の票数でも、国民全体の支持率でもない。募集結果の読み方と、個々の申請でどう判断されるかは分けて確認したい。
2. 2027年4月まで、全てが旧基準というわけではない
入管庁の申請手続ページは、2026年3月31日までの申請、4月1日から2027年3月31日までの申請、2027年4月1日以降の申請に分けて説明している。全体を「来年4月から」とだけ伝えると、収入に関する部分の先行適用を見落とす。申請を出した日だけでなく、改定日に審査中だったかも確認が必要である。
出入国在留管理庁の申請手続のお知らせと改定ガイドライン第6を基に作成。個別の許可・不許可を判定する表ではない。
| 申請時期 | 公式案内で示された扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 2026年3月31日まで | 2026年2月24日改訂版 | 全体を新基準としない |
| 2026年4月1日〜2027年3月31日 | 旧版を基本とし、収入に関する指定部分は10月1日改定版 | 改定日から6か月前以降の申請で、改定日に申請中の案件にも指定部分を適用 |
| 2027年4月1日以降 | 2026年10月1日改定版 | 収入以外も含む適用を確認 |
この表は行政の説明を整理したもので、過去に許可済みの人が直ちに再審査されるという表ではない。申請の審査、永住者の在留資格の取消し、在留カードの更新を一つの手続きとして混ぜない。自分の案件にどの版のどの項目が適用されるかは、最新の公式案内と管轄の相談窓口で確認する必要がある。
3. 平均収入と比べる前に、世帯と算入範囲を見る
改定版の第2の4(2)は、原則として同一生計世帯の収入を、世帯人数に応じた水準と比べる考え方を示す。同居する人の給与を何でも足せるわけではない。例えば「家族滞在」など、就労を目的としない在留資格の者が資格外活動で得る収入は、合算対象とはしないと説明される。扶養する親族は、外国に住んでいて同居していなくても世帯人数へ加算される。
つまり、世帯収入の合計という言葉だけでは足りない。同じ家に住む二人の収入があっても、算入できる範囲が違えば審査上の額は違う。また、家計で支えている親族が増えれば、比較する側の人数も変わり得る。額だけを先に計算してから家族の条件を後付けすると、制度の入口で読み違える。
旧稿に挙げた575万2千円は、全ての申請者に共通の公式な固定額ではなかったため本稿から外した。意見募集結果の別紙17番で、入管庁は年収水準・受給年金水準・補填資産額の具体額を公表する予定はないと説明している。一般統計の平均をそのまま合格ラインと呼んだり、平均以上なら必ず許可されると案内したりすることはできない。
平均と中央値が違うという統計の知識は重要だが、それだけで実際の申請者の通過割合は分からない。比較する日本人世帯の定義、人数別の水準、申請者側の算入範囲をそろえる必要がある。多くの日本人世帯が基準を満たせないとの評価をする場合にも、一般の全世帯統計をそのまま分母に置くのではなく、何と何を比較した分析なのかを明らかにすべきだ。
4. 年金の「30年」は、本人の加入期間の一律条件ではない
改定版は、申請時の年齢、これまでの加入状況、申請時の年収などから推計する将来の受給見込額を、所定の年収水準で30年間働き厚生年金に加入した場合の受給水準と比較する。この比較例を、申請者自身がすでに30年間加入していなければ申請できないという条件に読み替えてはならない。
受給見込額が水準に届かない場合には、不足する生活資金を補える金融資産を考慮する説明もある。年齢によって補填資産の水準も扱いが異なる。したがって、来日の年齢だけから誰が必ず不許可になるかを断定することはできない。年金の履歴と資産を見ずに、国民年金の加入者は一律に不可だと一般化することも避ける必要がある。
長く積み立てられる若い人と、受給開始が近い人では準備期間が違うという論点は残る。しかし、制度に年齢を考慮する仕組みがあることと、その仕組みが公平な結果を生んだと実証することは別である。実際の影響を論じるなら、年齢、世帯構成、加入歴などを分けた申請結果が必要になる。本稿はその効果をまだ検証していない。
5. 期間の特例と、許可の総合判断を混同しない
改定版の第3では、日本人・永住者・特別永住者の配偶者について、実体を伴う婚姻生活5年以上、引き続き日本に3年以上在留という期間が示される。ただし、前の適用時期の区別をせず、現在の全ての申請へこの期間を当てはめることはできない。在留期間の特例と、収入等を含む審査項目はそれぞれ確認すべきものだ。
ガイドラインの冒頭は、個々の事情を総合して判断する基本的な考え方だと説明する。数字を満たしたら機械的に許可される表でも、数字の一つが足りなければ全て同じ結果になる表でもない。旧稿の賛成側・反対側という二分法は、実際の団体や発言を確認せず代表的な主張として並べていたため改めた。公表された意見と行政の回答、編集部の評価を分けて扱う。
独自の視点――必要なのは、数字だけでない予測可能性
編集部は、今回の改定を「厳しくなったか」だけでなく、何を準備すれば判断を見通せるかという問題として読む。根拠は、収入の算入範囲や年金の比較方法は詳しく示される一方、具体的な金額は公表しないという行政の説明である。項目が細かくなることと、申請者が結果を予測しやすくなることは同じではない。これは制度の効果を断定した結論ではなく、公表資料を比較して導く編集部の分析だ。
例えば、架空の家族が「世帯の収入なら平均に届く」と考えて準備する場面を想定する。資格外活動の収入を足せると思っていたり、海外の扶養親族を人数から外していたりすると、最初の見積もりからずれる可能性がある。これは実際の取材例ではない。先に額を探すより、適用版、家族の範囲、算入対象、将来見込額の順で整理する必要性を示す設定例である。
今後は、行政がどの資料で各要素を確認し、事情の違いをどう説明するかに注目したい。明確化が進んだという評価には、書類の追加だけでなく、申請者が自分の不足や誤解を理解できることも問われる。非公表の固定額を推測して広めるのでなく、公開された境界と未確認の範囲を分けて伝える。それが、制度の適正な運用と生活の見通しを同時に考えるための独自の視点である。
更新・訂正(2026年10月10日):8月公表の改定案と意見募集の案内を、10月1日改定後の説明へ更新した。募集終了は9月4日0時0分で、9月4日終日ではない。収入部分の先行適用、同一生計世帯と算入範囲、年金の30年が比較水準である点を補った。旧稿の575万2千円は公式固定基準ではないため削除した。将来の許可率、雇用・年齢別の影響、個別申請の結果は検証・判定していない。
本稿は制度に関する一般的な情報であり、個別案件の許可の見込みを保証するものではない。申請に当たっては最新の公式案内と管轄窓口、必要に応じて専門家に確認する必要がある。
[文・構成=編集長 麻生矩暉]
出典とメモ
- 出入国在留管理庁:永住許可ガイドライン、2026年10月1日改定。総合判断、第2の4の収入・年金、第3の配偶者期間、第6の適用時期を原文で確認。全ての資格・例外を網羅した解説ではない。
- 入管庁:永住許可の申請手続と10月1日の適用案内。申請時期別の3区分を確認。表はこの案内とガイドライン第6を基に作成した。
- e-Gov:案件315000140の意見募集結果。公示・受付終了・改定日、提出意見数、案修正の有無を確認。
- 意見募集結果本文。募集期間と10月1日の改定を確認。
- 意見の要旨と入管庁の考え方。17番の具体額非公表方針を確認。意見件数を支持率とせず、行政の説明と編集部の分析を区別した。個別の許可・不許可や将来の制度効果は認定していない。










