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中高生の年金意識 56.5%の不安と16.1ポイント差をどう読む

教室で生徒と話す教師、机に置かれた家族の模型と若葉を描いたAI生成イラスト

年金の将来が不安だから負担したくない。それでも、制度への加入には納得する。この二つは、単純な賛成と反対の対立では捉えられない。明治大学大山典宏研究室とNPO法人Social Change Agencyによる中高生世代504人の調査では、将来の給付への不安を含む設問に56.5%が負担への抵抗を示し、別の設問では66.1%が公的年金への加入に納得すると回答した。元の報告書を確認すると、教育の役割と、その効果をまだ断定できない理由が見えてくる。

1. 全国504人の調査が捉えた範囲

回答を集めた期間は2025年12月25日から2026年1月4日である。調査団体の公開ページは2026年9月1日付で、調査方法や分析を記した全体版も掲載されている。対象には在学中の中高生だけでなく、中高生に相当する年齢の人も含まれる。各学年相当を84人ずつ、男女を252人ずつに割り付け、調査会社が事前登録した協力者の中から対象者を選んだ。

居住地は全47都道府県にわたるが、日本の中高生全体から直接抽出した標本ではない。地域が全国に広がっていることと、人口構成をそのまま代表していることは別である。報告書も結果の一般化に慎重さを求めている。本稿では「日本の中高生の過半数が拒絶した」ではなく、今回の回答者にどのような傾向があったかを読む。

2. 56.5%は、無条件の年金拒否ではない

問60は、将来の年金を受け取れないかもしれないという理由と、保険料を負担したくないという態度を一つの文章で尋ねている。肯定的な二つの選択肢は23.0%と33.5%で、合計56.5%となる。これは実際に納付を拒否した人数でも、将来必ず年金がなくなると考える割合でもない。理由を含む文章への回答を、単純な制度廃止への賛否に置き換えてはいけない。

問14の加入への納得66.1%も、負担額や将来の給付水準の全てに満足しているという意味ではない。二つの設問に同じ人がどう答えたかを示す組合せ表なしに、全員の心の中を説明することはできない。制度が必要だと認めることと、自分が負担する条件を不安に思うことは、論理的に両立し得る。

3. 16.1ポイント差と、比較する二つの集団

学校で社会保障を学んだことがあると認識している296人では、加入に納得する割合が73.6%だった。学んだことがないと答えた106人では57.5%で、表示値の引き算は73.6−57.5=16.1ポイントとなる。これは同じ生徒に授業を行う前と後の変化ではなく、別々の集団の回答割合の差である。学習経験そのものも、授業記録を確認した値ではなく本人の回答だ。

「令和7年度 中高生の社会保障に関する意識調査」全体版の本文51・53ページを基に作成

報告書の比較項目学習経験あり学習経験なし
比較対象の人数296人106人
加入に納得する割合73.6%57.5%
高校生の構成比60.5%24.5%

高校生の構成比にも60.5−24.5=36.0ポイントの違いがある。学年が上がることに伴う生活経験や将来への意識が、納得度に関わっている可能性を切り離せない。ただし、この表から学年こそが原因だと逆に断定することもできない。授業、年齢、家庭環境、もともとの関心のどれが差を生んだかを確かめるには、条件をそろえた追加分析が必要になる。

学習経験が「わからない」の102人は、学習の有無を区分できないため群間比較から除かれている。編集部の計算では102÷504×100=約20.2%である。この人たちの回答が無効だったわけではなく、全体の集計には含まれる。二群の比較結果を、504人全員が明確に学習者と未学習者に分かれた結果として示さないことも重要だ。

4. 有意差があっても、授業の効果とは限らない

報告書は年金加入への回答を納得・非納得・中立の三つにまとめ、二群の分布について統計的に有意な差があるとしている。ただし、統計的な関連が確認できたことは、授業が差を生んだという因果の証明ではない。一時点を調べた横断調査であり、もともと関心の強い人ほど授業を覚えている可能性なども排除できない。

さらに、複数の設問を検定した際の多重比較の補正は行っていないと明記されている。結果は差の大きさとともに探索的に読む必要がある。「有意」という言葉を、重要な効果が確定したという意味で使わない。今回の調査は次に検証する仮説を見つける資料であり、特定の教材を何分使えば納得度が上がるか、費用に見合う成果が出るかまでは測っていない。

5. 加入に納得しても、将来不安は残る

もう一つ見落とせないのは、学習経験のある群でも問60への肯定が61.8%だった点である。加入に納得する73.6%と、将来不安を理由に負担へ抵抗を示す61.8%が同じ群にある。学んだ人の中から不安が消えた、という物語にはならない。ここでも二つの割合だけで個々の回答の組合せは確定できないが、教育と不安を単純な反比例として扱えないことは分かる。

九つの知識問題の平均正答数は学習群5.51問、未学習群5.11問で、差は0.40問だった。合計では有意差があった一方、個々の設問ではいずれも5%水準の有意差はなかった。これは効果がゼロという証明でもない。何を知っているか、加入に納得するか、実際に支援を探せるかは別の尺度で、同じ「教育の成果」として一つにまとめるべきではない。

6. 教材の好みと、使える力を分けて測る

経験した授業では講義が59.5%で最多、希望する形式ではゲームやシミュレーションが25.8%で最多だった。ただし前者は学習経験のある296人の複数回答、後者は504人全員の単一回答である。59.5と25.8を引いて授業と希望の不足分を測ることはできない。希望された形式が、知識の定着や相談行動にも最も有効だと結論する資料でもない。

Social Change Agencyの社会保障ゲームは、架空の人物の生活上の危機に対応する支援を学ぶ教材である。制度を具体的な場面に結び付ける方法として検討できるが、今回の群間比較はその教材の実施効果を測った試験ではない。例えば架空の家族の失業を題材に、相談先を探す課題を授業の前後に置く方法が考えられる。これは編集部の提案であり、取材した実体験や実施済みの成果ではない。

独自の視点――納得の割合だけでは教育を評価できない

編集部は、今回の調査を「年金に納得させる授業が足りない」という結論に縮めるべきではないと考える。根拠は、学習群の加入納得が高い一方、その群にも将来不安を含む負担への抵抗が61.8%あること、二群の学年構成が大きく異なることである。これは調査で確定した因果ではなく、確認した集計から導く編集部の分析である。

次の検証では、制度の知識、困った際の相談先を探す力、制度の負担と給付を吟味する力を別々に測りたい。比較可能な条件で事前・事後を調べ、一定期間後にも確認すれば、その場の感想と残った理解を分けられる。授業後に疑問を具体的に言えるようになった人を、納得しなかったという理由だけで失敗と判定するなら、制度を考える力を取り逃がす。納得率を上げることではなく、必要な支援にたどり着き、根拠を持って制度に問いを返せることまで評価に入れる。それが、16.1ポイントという差を政策の宣伝にも教育の否定にも使わない読み方である。

訂正・補足(2026年10月9日):調査団体の全体版で主要数値と調査方法を確認し、二群の違いを授業の因果効果とする説明、90分の授業の費用や効果を断定する説明を修正した。子どもの医療費自己負担を一律に3割とする記述も削除した。集計された回答と編集部の計算・提案を区別している。

[文・構成=編集長 麻生 矩暉]

出典とメモ