JB News

政治・経済・海外情勢の深層を読み解くニュースメディア

日本産ジクロロシランに最大99.2%の保証金 中国市場59.52%の分母を読む

半導体ウエハーと閉じた調達書類ファイルを描いたAI生成イラスト。実物のジクロロシランや輸入禁止を示す図ではない

半導体をつくる特殊ガスに最大99.2%の保証金が課される。中国商務部は9月7日、日本産ジクロロシランについてダンピングと中国国内産業への実質的損害、その因果関係を仮認定し、9月8日から保証金による臨時措置を実施すると公告した。高い率だけでなく、誰が支払い、何を分母に計算し、どの市場を比べたのかが重要だ。公告と仮決定の資料を読み直すと、旧稿のシェア6割と価格がほぼ倍という説明には、別々の補足が必要になる。

1. 半導体に使う材料だが、全てに必須とは断定しない

ジクロロシランは英語でDichlorosilane、略称DCS、分子式はSiH₂Cl₂である。商務部の公告は、主な用途を半導体の製造工程の薄膜形成と説明し、ロジック、メモリ、アナログなどの製造や、ケイ素を含む別の原料の合成にも使われると記す。用途が複数あることは確認できるが、半導体なら種類や工程を問わず全てに必須という意味ではない。

対象は日本を原産とするこの製品である。中国の税則番号28539090に含まれるもの全てではなく、同番号の他製品は調査対象外と明記されている。特殊ガス全体や日本産化学品全体の措置に広げて読むこともできない。対象を狭く定義することと、影響が小さいと結論することも別だ。

本稿は公告の対象と用途を説明するもので、個別の半導体工場の工程や、安全な取扱いを解説するものではない。原文は常温常圧下で可燃性・毒性のある気体とする。旧稿の145トンならトラック数台という例えは、容器や輸送条件を確認していないため削除する。重量だけで実際の輸送や取扱いを想像してはならない。

2. 99.2%は企業別の保証金率である

商務部2026年第37号公告を基に作成。企業名と率を公告本文で直接照合した。措置の主体・対象は公告の記載に従う。

公告の企業区分保証金率位置付け
信越化学工業99.2%9月8日からの臨時措置
Denal Silane(デナールシラン)80.8%同じ対象製品でも率が異なる
その他の日本企業99.2%最終関税率の確定ではない

公告が支払う側として記すのは、対象製品を輸入する輸入経営者であり、中国税関へ保証金を提供する。信越化学の99.2%を、日本企業が輸出額の99.2%を直接税関へ納めるという説明に読み替えない。契約を通じてどちらが負担を吸収するかは、別に確かめる事項である。

算定式は、税関が決める課税価格×保証金率×(1+輸入時の増値税率)である。率だけを商品価格へ足して終わる計算ではない。通常の税や輸送費を含む輸入総額の式でもない。保証金の額、商品そのものの販売価格、最終的に残る費用を分けて読む必要がある。

例えば課税価格を100万人民元、増値税率を説明用に13%と置くと、80.8%の場合は100万×0.808×1.13=91万3,040元、99.2%では112万960元の保証金となる。差は20万7,920元である。13%は本稿の仮定で、実際の適用率を確認した結果ではない。実在の輸入取引、会社の損失や販売価格の予測として使わない。

保証金を準備することで資金の拘束が生じ得ることと、同額の最終損失が確定することは違う。旧稿の「資金繰りの上では実損」という説明を改める。将来の精算や返還の扱い、契約、資金調達費用を今回全て調べたわけではなく、返還が必ずあるとも、全額が損失になるとも断定しない。

3. 59.52%の分母は、中国国内の需要量

仮決定の附表は、2025年1~6月の被調査製品の輸入量を145,820キログラム、需要量を245,000キログラムと記す。145,820÷245,000×100=約59.52%となる。145.82トンという量を、中国国内市場の需要量で割ったシェアである。旧稿の「中国の輸入市場で6割」は分母を誤っていた。

しかも2026年9月の現在のシェアを測った値ではない。調査資料が対象にした2025年上半期の数字である。半導体ガス全体のシェア、全世界のシェア、日本の輸出総額に占める割合とも異なる。数字が大きいだけで「中国が最も頼る材料」と他の材料まで順位付けすることはできない。

商務部の仮決定・附表29頁を基に作成。輸入量を需要量で割るシェアであり、輸入品だけを分母とする割合ではない。

資料の同じ半年の比較2024年1~6月2025年1~6月
被調査製品の輸入量146,380kg145,820kg
中国国内の需要量226,000kg245,000kg
被調査製品の国内市場シェア64.77%59.52%

輸入量の前年同期比は(145,820-146,380)÷146,380×100で約0.38%減、需要量は(245,000-226,000)÷226,000×100で約8.41%増。シェアは64.77-59.52=5.25ポイント低下している。輸入量がほぼ横ばいでも、分母が増えるためシェアは低下する。資料の比率を編集部が追試した計算である。

この低下だけで日本産への依存が解消したとはいえないし、需要増の全量が中国製に置き換わったともいえない。生産、販売、在庫、他の供給を分けて見る必要がある。附表の数量を使って、個別の工場の停止や半導体製品の値上げ率まで計算することはできない。

4. 数量の元は税則番号だけの単純集計ではない

仮決定の17頁は、同じ税則番号に複数の製品が含まれるため、税関統計だけでは被調査製品の輸入量を正確に特定できないと説明する。申請人が提出した第三者の業界機関の数量を、調査機関が審査して採用したとしている。公告に載った数字だからといって、税則番号の全輸入をそのまま集計した値だと扱わない。

本稿はその採用された数量と需要量から比率を再計算した。第三者機関の元の全データや日本企業の全回答を、編集部が独立して監査したわけではない。公式資料による判断の内容を確認することと、判断の根拠を全て独自に立証することは分ける必要がある。

さらに附表には国全体の生産量と、国内産業として扱う企業の指数化された数値が並ぶ。指数の100を実際の100キログラムとして足すなど、公開範囲の違う値を混ぜた計算はしない。数量、割合、指数の区別を残すことが、表から独自分析を作るときの最低条件になる。

5. 代替の難しさは、企業の主張と仮判断を分ける

15頁には、信越化学と日本エア・リキードなどが、品質や信頼性、純度・長期供給安定性に関する顧客の認証、長期の信頼関係を理由に、中国製との比較可能性について主張したと記す。認証と安定供給は、この案件で実際に議論された論点である。

一方、調査機関は資料上の証拠を検討したとして、国内製と輸入品を両方調達する顧客などに言及し、認証の手続きだけでは同種製品の認定を決める要因にならないとして、これらの主張を仮決定では受け入れなかった。企業側の説明と当局の評価を、どちらも帰属を付けて読む必要がある。

これは各工場が明日から全量を切り替えられるという実証でも、逆にどこも切り替えられないという実証でもない。旧稿の純度より価格で選べない、装置条件や製品認定を全てやり直すという説明は、個別工程を検証した事実としては維持しない。切替えの時間や費用は、顧客ごとの資料が必要だ。

6. 仮決定の段階と、最終判断の日を混ぜない

第2号公告による調査開始は2026年1月7日で、9月7日の仮決定は暦で8か月後である。立案公告は通常2027年1月7日までに調査を終え、特別な場合には6か月延長できるとする。最終判断をその日に必ず公表するという予約ではなく、調査期限の説明である。

ダンピングの調査対象期間は2024年7月~2025年6月、産業損害の対象期間は2022年1月~2025年6月と、調査を実施する2026年からの期間とは別に定められている。9月の新しい公告でも、過去の取引や産業の状況を調べている点を残したい。

仮決定公告は公布から10日以内の書面意見提出を認めたが、10月11日の確認時点でこれを今から利用できる期限として案内しない。報道官は、今後も調査し利害関係者の権利を保障すると説明した。本稿は9月の仮決定を読み直すもので、以後の全公告を確認した現行措置一覧ではない。

独自の視点――率、資金、市場の三つの分母をそろえる

編集部が重視するのは、99.2%と59.52%を同じ割合のように並べないことだ。前者は課税価格に対する保証金率、後者は2025年上半期の中国国内需要に対する数量シェアである。前者を理解するには支払う輸入者と増値税を含む式、後者には数量の取得方法と期間が必要になる。

シェア低下の追試は、輸入が急減しなくても市場の拡大によって割合が動くことを示した。高い保証金は資金の準備を必要にし得るが、それだけで取引が止まるか、誰が負担を吸収するかは決まらない。国内産業の保護と川下の調達という二つの問題を、率だけで一方の勝利や損失に置き換えないほうが現実を追いやすい。

今後確認するなら、最終公告の率と対象、実際の輸入数量、顧客側の切替えの状況、資金負担の帰属をそれぞれ追いたい。これは資料から導く編集部の検証課題で、外交上の報復意図や特定の企業の戦略を証明したものではない。小さな材料の案件こそ、量の小ささを比喩で埋めず、対象と期間の境界をそろえることで、供給網への影響を具体的に考えられる。

訂正・補足(2026年10月11日):企業別率を報道中心の記載から商務部第37号公告での直接確認へ改めた。旧稿のシェア約6割は輸入市場ではなく、2025年上半期の中国国内需要に対する59.52%である。輸入量を145.82トンと示し、未照合のトラック台数例を削除。保証金を販売価格のほぼ倍化や確定した実損と同義にしない。全半導体に必須、代替不可能、輸出額が小さい、外交的に代えにくい材料を狙ったという未立証の断定を改め、企業側主張と当局の仮評価を区別した。最終判断の内容・時期が当該仮決定では確定していないという旧注意を保持する。

[文・構成=編集長 麻生 矩暉]

出典とメモ

  • 商務部2026年第37号公告、9月7日。企業別保証金率、対象と税則番号の除外、輸入者、増値税を含む式、9月8日からの措置、10日以内の意見提出を直接確認。
  • 同公告添付の仮決定PDF14・15・17・29頁を紙面確認。企業側主張と当局の仮評価、数量の第三者データ採用、同じ半期の輸入量・需要量・シェアを照合。比較表と独自計算はこれらを基に作成。第三者の元データや全企業回答を独立監査したわけではない。
  • 商務部第2号立案公告(商務部貿易救済情報網掲載)、1月7日。調査対象期間、通常の終了期限と延長を確認。仮決定についての報道官説明も確認し、当局の見解として紹介した。
  • 旧補助出典のJETRO解説、日経報道、東京新聞(旧掲載先は2026年10月13日確認時点で閲覧不可)、新華社を履歴として保持。10月11日確認。現行の全法令・以後の全公告・最終精算や返還・実際の増値税適用率・個別取引費用・全工場の代替認証・日本の輸出総額・外交意図は今回未検証。仮定計算は実際の税務や企業の損失の助言ではなく、最終節は編集部の分析である。