米労働省が10月2日に発表した9月の米雇用統計で、非農業部門の雇用者数は前月から2万9000人増にとどまった。市場予想の8万8000人を5万9000人下回り、失業率は4.1%から4.2%に上がった。米連邦準備制度理事会(FRB)は9月16日に約3年ぶりの利上げに踏み切ったばかりで、10月の追加利上げの織り込みは26.0%から14.9%に下がった。ドル円は発表直後に円高方向に振れた。ただし、市場の織り込みは10月2日の観測であり、FRBや日銀の次回決定を示すものではない。
1. 9月の雇用統計は何が悪かったのか
非農業部門雇用者数とは、農業を除く米国の事業所で、前の月から雇用がどれだけ増えたかを示す統計である。米経済の体温計として、世界中の市場が毎月、発表の時刻を待つ。
9月の増加は2万9000人で、報道された予想8万8000人との差は5万9000人だった。29000÷88000×100=約33.0%で、34%という従来の計算を訂正する。ただし市場予想を下回ることと、雇用者数そのものが減ることは別である。BLSは雇用・失業率とも大きく変わらなかったと説明しており、市場の期待との差と統計の評価を分けたい。
失業率は4.2%で、前月の4.1%から0.1ポイント上がった。市場は4.1%の横ばいを見込んでいた。平均時給は前月比で0.1%増にとどまり、予想の0.3%増を下回った。仕事の数だけでなく、賃金の伸びも弱かったことになる。
2. 8月の「16.2万人」からどれだけ落ちたのか
8月は初回発表16万2000人増から、今回13万3000人増へ改定された。9月2万9000人と同じ発表時点で比べると、増加幅の差は10万4000人で、約78.2%小さい。「13万3000人減、82%減」は旧8月値との比較だった。雇用総数が78.2%減ったわけではなく、前月から増えた人数の大きさを比べている。
もう一つ、気になる点がある。7月分と8月分は、今回の発表で合計6万人下方修正された。しかも7月は、修正後にマイナスになった。雇用統計の最初の数字は速報値であり、あとから何度も書き換えられる。今回のように過去分が下がると、「持ち直した」と見えた8月の数字も、実はもっと低かった可能性が出てくる。
同じ発表時点の8月13万3000人と9月2万9000人の平均は8万1000人となる。旧8月値を混ぜた9万5500人という平均は訂正する。さらに7月の改定値−1万人も含む3か月平均は約5万667人である。平均を取れば単月のぶれはならされるが、速報値の改定がなくなるわけでも、将来の景気が確定するわけでもない。
3. FRBは利上げしたばかりなのに、何が変わったのか
FRBは9月16日、政策金利を0.25%引き上げ、3.75〜4.00%にした。約3年ぶりの利上げである。次の会合は10月27〜28日に開かれる。OANDA証券の10月2日付レポートがCME FedWatchを参照して示した追加利上げの織り込みは、日本時間同日21時10分の26.0%から21時40分の14.9%へ下がり、据え置きは85.1%となった。これはその時点の市場データで、FRBが公表した実行確率や現在の値ではない。
26.0%から14.9%へ、約11ポイントの低下である(編集部による計算)。たった一つの統計で、これだけ動くのはなぜか。FRBが政策を決めるときの柱は、物価と雇用の二つだからだ。物価の上昇を抑えるために利上げをしたが、雇用が急に冷え込むと、さらに利上げをする理由が弱くなる。賃金の伸びが0.1%にとどまったことも、物価の勢いが強まりにくいことを示す材料になる。
FRBの幹部からは、追加利上げを「急ぐ必要はない」という趣旨の発言も出ていた。今回の数字は、その慎重な空気を裏づける形になった。
4. 市場はどう動いたのか
発表後、ドル円は157.60円から156.96円まで下がった。約64銭の円高である(編集部による計算)。日米の金利差が縮むという見方が、ドルを売って円を買う動きにつながった。ただ、動いた幅は1円に届いておらず、市場が「円安の流れが変わった」と判断したとまでは言えない。OANDA証券の見立てでは、158円近辺が上値の壁、156.3円近辺が下値の支えになる。
金は動きが大きかった。1オンスあたり4183ドルから4227ドルへ、44ドル上昇した。率にして約1.1%である(編集部による計算)。金は利息を生まない資産なので、利上げの観測が弱まると買われやすい。今回はその典型的な反応だった。
5. 日銀の10月利上げはなくなったのか
日本の政策金利は、9月18日の会合で1.25%程度への変更が決定され、9月24日から適用されている。10月の記事で6月の1.0%程度を現在の水準とした記述は訂正する。米雇用統計による相場の変化と、日銀の次回判断は同じではない。市場の利上げ確率は観測時点とデータ提供者を添え、既に実施された金利と区別する必要がある。
野村證券は8月の時点で、円安の進行と原油価格の再上昇リスクを理由に、日銀の利上げ見通しを前倒ししていた。円安は物価を押し上げ、日銀に利上げを促す要因になるからだ。8月3日には、日米が28年ぶりに協調して円買い介入を行ったこともある。円安が日本の政策を動かす力は、それほど強い。
その円安が今回、少し緩んだ。米国の利上げ観測が弱まれば、円安の圧力も和らぐ。理屈の上では、日銀が10月に急いで動く理由は、また一つ減ったことになる。市場では、年内にもう1回、12月を有力とする見方が多い。10月の可能性がゼロになったわけではないが、前週より薄くなったというのが、いまの位置である。
6. これから何を見ればよいのか
次の焦点は、10月27〜28日のFOMCと、その後の雇用統計の改定である。BLSは10月分を11月6日午前8時30分(米東部時間)に公表予定としている。「10月に発表される次の雇用統計」という従来の記述は誤りで、10月会合の前に10月分の月次統計を読めるわけではない。政策判断と指標の対象月・発表日を同じ時系列へ並べる必要がある。
雇用統計は、一つの月の数字だけで景気を言い切れる統計ではない。それでも今回は、「利上げ後の最初の数字が弱かった」という事実が、日米の金融政策の見通しを同時に動かした。海外の統計が、日本の金利の話に直結する時代である。私たちは、数字そのものより、それが次の政策判断にどうつながるかを見ておきたい。
公表値と改定値を確かめる
米労働省労働統計局(BLS)の2026年9月雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比2万9000人増、失業率が4.2%で、いずれも大きな変化ではなかったとしている。7月分は2万1000人増から1万人減へ、8月分は16万2000人増から13万3000人増へ下方改定され、二か月合計では従来公表値より6万人少なくなった。一方、利上げ確率のような市場予想は民間データで時点によって変わるため、速報値を含む統計機関の公表値と同列には扱えない。
検証方法:BLSの「The Employment Situation」本文の総雇用、失業率、改定欄を照合する。金融政策の判断は雇用だけで決まらず、物価・賃金・金融環境も含むため、単一指標から政策を断定しない。
出典:U.S. Bureau of Labor Statistics, The Employment Situation — September 2026を基に作成。
BLSの2026年9月雇用統計を基に作成。前月からの増減であり、雇用総数ではない
| 対象月 | 旧発表値 | 10月2日発表時点 | 改定幅 |
|---|---|---|---|
| 7月 | +21,000人 | −10,000人 | −31,000人 |
| 8月 | +162,000人 | +133,000人 | −29,000人 |
| 9月 | 未発表 | +29,000人 | 初回値 |
独自の視点――予想との差と過去値の改定を混ぜない
今回の独自整理で重視したのは、予想との差、前月との比較、過去値の改定という三つを同じ計算にしないことだ。予想は統計機関の公表値ではなく、どの民間調査を使うかでも違う。改定は過去の実績推定を更新し、前月比はその時点の系列で求める。古い値と新しい値を混ぜれば、計算式が正しくても比較の条件がそろわない。
また、雇用者数と失業率は別の調査から得られる。雇用者数が増えて失業率も上がることは、それだけで矛盾ではない。働く意思を持って労働市場へ参加する人の変化も関わるからだ。2万9000人を失業率の分母にしたり、失業率0.1ポイントの変化を同じ人数へ換算したりはしない。今回の表は事業所調査の雇用の増減だけをそろえている。
訂正(2026年10月9日):予想比を約33.0%へ、改定後8月との比較を10万4000人・約78.2%の増加幅縮小へ、2か月平均を8万1000人へ訂正した。次の雇用統計は11月6日予定とした。これらはBLSの同じ発表時点を使った計算である。利上げの市場織り込み確率と価格変動は従来の民間報道値で、BLSやFRBが公表した確率ではない。
追加訂正(2026年10月9日):日銀の政策金利の現在値を1.0%程度から1.25%程度へ訂正した。9月18日の決定、24日の適用を公式文書で確認した。これにより、米国の統計発表時点での日米双方の現在地をそろえた。
※本稿の雇用統計の数字は速報値で、今後改定される。FOMCでの利上げ確率は、OANDA証券の記事が示す市場の織り込みにもとづく。
本稿は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
[文・構成=編集長 麻生 矩暉]
出典とメモ
2026年10月9日、BLSの9月雇用統計(10月2日発表)の雇用、改定、次回予定を直接確認。表と計算は同資料を基に作成した。9月16日の0.25ポイント引上げと3.75〜4.00%の範囲はFRBの当日声明でも照合した。
日銀の政策金利の照合資料:2026年9月18日「金融市場調節方針の変更について」1ページと適用日の脚注。














