亀田製菓は9月16日、インドの合弁会社カメダLTフーズ(KLT)に持つ49%の株式を全てLT Foodsへ譲渡すると決議し、契約を結んだ。2026年3月期のKLTの売上高は1億4097万2000ルピー、当期純損失は1億2111万4000ルピーだった。赤字額は売上の約85.9%に相当する。ただし、この大きな比率だけで、商品が売れなかった理由や撤退の是非まで説明することはできない。会社が示した3年の決算と現地側の商品発表を照合すると、事業の成長、損失、所有の変更は別々に読む必要がある。
1. 決議と譲渡の完了は別である
会社発表の実行予定は10月下旬である。9月16日は取締役会の決議日と契約締結日で、譲渡が完了した日ではない。実行後は亀田製菓の保有株がゼロとなり、持分法適用関連会社から外れる。本稿では完了の追加開示を確認しておらず、予定を実績として書かない。
株式の譲渡と会社の清算も違う。売る対象は株式であり、発表は工場の閉鎖や商品の全面的な販売終了を決めた文書ではない。日本企業の出資撤退を、インドの米菓市場そのものが消える出来事と扱うのは早計である。所有者が替わることと、事業がなくなることを区別したい。
会社が挙げた理由は、北米事業の構造改革を経た海外展開の総合的な検討と、KLTの成長及びグループの中長期戦略への寄与である。これは会社の説明として読むべきで、赤字だけが唯一の理由だったという証明ではない。判断が正しかったかという評価も、理由の引用だけでは完結しない。
2. 三つの決算を、同じ単位で比較する
亀田製菓9月16日開示「最近3年間の経営成績及び財政状態」を基に作成。単位は千ルピー、負号は赤字又は負の純資産を示す。亀田製菓グループ全体の決算ではない。
| 項目(千ルピー) | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 77,702 | 146,213 | 140,972 |
| 営業利益 | -99,480 | -56,233 | -58,415 |
| 経常利益 | -98,010 | -54,868 | -54,617 |
| 当期純利益 | -98,316 | -55,696 | -121,114 |
| 純資産 | 145,107 | 89,411 | -31,703 |
原表の140,972は140,972ルピーではなく、その1000倍である。円換算の約2億2600万円、赤字約1億9400万円は旧稿が報道から採った概算で、会社表に円額が記載されているわけではない。本稿の比較と計算は同じルピー単位に統一し、換算時点の違いを事業変化と誤認しない。
売上の前年比は、2025年3月期が146,213÷77,702-1=約88.2%増、2026年3月期が140,972÷146,213-1=約3.6%減となる。最後の一年は減収だが、3年前より売上は大きい。9年間ずっと売れない循環だったという旧稿の物語は、この3年の数字からは導けない。
一方、3期とも営業赤字である。売上の伸びが利益を伴ったかという問いは残る。売上の増加だけを成功、最後の減少だけを失敗とするのではなく、売上と各段階の利益を一組で追う必要がある。
3. 赤字率85.9%は、売るたびの損失ではない
2026年3月期の純損失の売上比は121,114÷140,972×100=約85.9%、営業損失の売上比は58,415÷140,972×100=約41.4%となる。旧稿の100円売って86円の赤字という表現は、年間の売上に年間の純損失を比べた説明に限られる。個々の商品を100円売るたびに86円失うという採算測定ではない。
経常損失は54,617、純損失は121,114で、差は66,497千ルピーである。ただし、今回の概要表だけではこの差の内訳を確認できない。税金、特別損益などの具体的な項目へ勝手に割り当てたり、株式譲渡損が既に含まれると推定したりはしない。
営業損失と純損失が同じではない以上、赤字率だけで原価や広告費を減らしても解消不可能だったと断定することもできない。必要なのは費用の内訳、販売数量、単価、設備の負担などだ。本稿はその明細を取得しておらず、損益分岐点や改善可能性を算定したという主張はしない。
4. 設立から9年と、商品の販売期間は同じではない
KLTの設立日は2017年3月14日で、決議の2026年9月まで約9年半である。しかしLT Foodsの2021年4月の発表は、Kari Kariのインド導入を2020年1月と説明している。設立からの経過年数を、その商品が市場で売られた期間へそのまま置き換えてはいけない。
同発表では豪州とUAEへの輸出、インドでの店舗・電子商取引を通じた販売が説明されていた。会社の開示でもKLTの販売範囲はインド国内外となっている。したがって、KLTの全売上をインド国内の消費者だけが買った金額とは扱えない。輸出の地域別実績まで今回の資料では確認できていない。
9年は海外事業の一般的な判断期限だ、あるいは通常5~10年で立ち上がるという旧稿の説明にも根拠を示せていないため、削除した。工場の準備、商品投入、販路拡大をどこから数えるかによって期間の意味は変わる。時計の起点を明らかにせず、時間だけから判断の遅さを評価しない。
5. 広告も味も、決算だけから敗因にしない
2025年5月のLT Foods発表は、新商品Krispy Hopuを投入し、20ルピーと50ルピーのサイズ、電子商取引等での発売と主要都市の小売展開計画を示していた。焼いた米菓という特徴を打ち出した販売戦略があったことは確認できる。ただし、商品説明の健康上の優位性を本稿が検証したわけではない。
この発表は販路の計画を示す資料で、実際の購入者数や販売の成功を証明する資料ではない。逆に、最終赤字から広告の原資がなかったと推論することもできない。広告費や資金調達を確認せず、宣伝できないから売れないという循環を実態として描いた旧稿は改める。
国の人口を売上の分母にすれば、低い普及率はいくらでも作れる。しかし食品の売上は価格帯、販路、購入機会、輸出先も関わる。日本のスーパー一店の売上との比較も、裏付けと比較条件を欠いていたため外した。市場の大きさより先に、どの売上を誰の需要と比較しているかを確かめるべきである。
6. 手放せば全ての負担が消えるとは限らない
49%という比率は確認できるが、合弁契約の意思決定条項まで示されたものではない。51%の側が何もかも単独で決め、合弁だから立て直しが遅れたという旧稿の説明は撤回する。取締役構成、同意が必要な事項、役割分担を確認せず、比率だけで経営の経緯は決められない。
会社表には役員の兼務、資金の貸付、社員の派遣などの関係も記載されている。株を手放すことと、関連する債権や契約の精算が全て終わることは別だ。譲渡後は必ず全損失が止まる、と断定するには条件の確認が足りない。
日本側の9月16日開示は譲渡価額を開示していない一方、連結業績への影響は軽微と見込むと説明していた。旧稿の影響を何も確認できていないという注意は、この定性的な説明を補って更新する。ただし具体的な損益額を確認したわけではなく、対象会社の純損失をそのまま亀田製菓の譲渡損ともしない。
独自の視点――撤退を読むには、売上と所有の時計を分ける
編集部は、今回の事業を売上の時計、損益の時計、所有の時計に分けて読む。売上の時計では2025年の増加と2026年の減少、損益の時計では営業赤字の継続と純損失の拡大、所有の時計では9月の契約とその後の実行予定がある。三つは同時に同じ方向へ動いてはいない。
この比較から導けるのは、撤退を単なる市場不適合の結末に縮めるべきでないという視点だ。売上が増えても利益が伴わず、商品展開を続けながら出資構成を変える場合がある。検証は、同じ単位の複数年決算、損失の段階、販売開始時期、譲渡の実行と条件の順に行う。これは公表資料からの編集部の分析であり、現地を取材した体験談や経営判断の正しさを証明した結論ではない。
訂正・補足(2026年10月10日):会社原表の3年決算を追加し、設立からの期間と商品の販売期間を区別した。赤字率から改善不可能、広告費不足、合弁による判断の遅さ、譲渡後の全損失停止を断定した説明を撤回した。円換算は報道の概算という従来の注意を保持し、比較は千ルピーの公式表に統一。業績影響は日本側発表で軽微の見込みと確認したが、具体的な損益額は未確認。譲渡の完了は確認していない。
[文・構成=編集長 麻生 矩暉]
出典とメモ
- 亀田製菓:9月16日「持分法適用関連会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ」。公式IRのRSSからリンクを取得し全2ページを紙面確認。決議・契約・予定、出資と貸付等の関係、3年決算、業績への定性的な見込みを確認し、比較表を作成。85.9%・41.4%、88.2%増・3.6%減、66,497千ルピーは原表を基にした編集部計算。差額の具体的な損益内訳は未確認。
- LT Foods:2021年4月22日の豪州・UAE展開発表。1ページでインド導入時期、輸出、販路の説明を確認。各地域の販売実績や現在の展開全体を確認したものではない。
- 同:2025年5月26日の新商品発表。1・2ページで商品投入、価格、販路計画を確認。将来計画、販促上の説明、実績を区別し、健康効果や販売の成功を本稿の検証結果としない。
- 日本経済新聞:9月16日報道は旧稿の円概算の参照元として保持。円換算レート、譲渡完了、全契約の精算、資金・費用明細、売れなかった因果理由、意思決定の全過程は未検証。














