第18回BRICS首脳会議のニューデリー宣言は、番号付きの140項目からなる。インド首相府が公表した英文を検索すると、ウクライナを表すUkrainの語幹は見当たらなかった。しかし、語がないという確認と、書かなかった理由が分かったという説明は別である。前年の宣言との違い、今年の中東関連の記述、関税や制裁への主張を照らし合わせ、宣言が伝える合意の内容と、文面だけでは判断できない部分を分けて読む。
1. 140項目は、宣言本文の番号を確認した値である
公表された第1項は、会議を2026年9月12~13日にニューデリーで開いたと記す。編集部はページのメニューや関連記事を除いた英文で、第1項から第140項までの番号が一つずつ順に存在することを確認した。末尾の数字だけを見て、中間の欠落や重複まで確認したことにはしない手順である。
会議のテーマは強靱性、革新、協力、持続可能性を掲げる。宣言には通商、安全保障、金融、文化など異なる分野が並ぶため、140という数を特定の争点への関心の強さに置き換えない。一つの長い項目と短い項目でも番号の数は一つであり、項目数だけで内容の分量は比べられない。
共同宣言から確認できるのは、公表文に盛り込まれた立場である。どの国が文案を作り、どの表現を削るよう求めたかは、交渉の記録なしに復元できない。合意できなかったことは必ず載らないという旧説明も単純化が過ぎる。異なる各国の立場に留保しながら、共通の表現を置くこともあるためだ。
2. ウクライナへの言及は、前年にはあった
インド首相府公表の2025年・2026年宣言を基に作成。0件は2026年の指定英文に限る編集部の文字列検索で、各国の全声明や全言語版の確認ではない。
| 確認する文書 | 確認できる内容 | そこからは分からないこと |
|---|---|---|
| 2025年リオ宣言 | ウクライナの紛争に関する各国の立場と外交的解決への期待に言及 | 加盟国全ての戦争観が同一か |
| 2026年ニューデリー宣言 | 第1~140項の英文でUkrainの語幹は0件 | 非掲載を決めた国・理由・交渉経緯 |
| 2026年の第33項 | 南アフリカがイスラエルを相手に起こした司法手続きに言及 | 宣言全体が国名を避けるという一般化 |
2025年のリオデジャネイロ宣言は、ウクライナの紛争について適切な場で表明した各国の立場に触れ、対話や外交による解決への取組を述べていた。少なくとも、ロシアが参加するBRICSではウクライナを書けないという一般則にはならない。今回の非掲載は、前年に言及があった事実と並べて読む必要がある。
ただし、前年の記述が今年にはないことから、BRICSが外交的解決を拒んだ、紛争への関心を失ったとまで結論づけることもできない。文章の変化は確認できるが、その政治的な理由には別の根拠が要る。今回の宣言の非掲載を、全参加国の考えが一致した証拠にも、各国の発言がなかった証拠にもしない。
編集部の検索はUkrainを大文字・小文字の区別なしで調べたもので、UkraineだけでなくUkrainianなどの語形も拾う。一方、地名を出さず一般的な平和や紛争に触れる文章の意味までは、文字列の件数で判定できない。語の不在と、問題そのものへの立場の不在を混同しない。
3. WTO・関税・制裁の記述は、主張として読む
第20項はWTOを軸にした通商体制を支持し、二段階の紛争解決機能の回復と上級委員会委員の任命を求める。第21項はWTOルールと整合しない関税・非関税措置への懸念、第22項は国際法に反するとする一方的な強制措置や制裁への反対を示す。三項目は、制度、貿易制限、制裁という異なる論点を扱う。
宣言が違法だと批判していることと、編集部が特定の国の措置を全て違法と認定することは別だ。どの措置について、どの規則や例外が問題となり、どんな手続きで争われたかを追わず、共同宣言の表現だけを法的な結論として使わない。
第22項は二次制裁にも触れるが、本文のこの箇所で特定の取引や日本企業の契約を列挙しているわけではない。旧稿の周囲の国の商売が止まるという説明は一律すぎるため改める。実際に何が制限されるかは、対象・適用範囲・実施措置を確認してから論じる必要がある。
同様に、関税への懸念が表明されたことで関税が直ちに下がるわけではない。主張の一致、交渉の開始、合意文書、国内の実施、企業の取引への影響は違う段階である。宣言を読むことは次に追う争点を知る入口であり、その後の政策変更まで確認したことにはならない。
4. 中東で国名を出さない、という説明は改める
第32項は占領されたパレスチナ領土からの強制移動などに反対し、第34項はエルサレムの地位を変えようとする一方的措置を拒む。その二項目だけを切り取れば行為や地域を中心に述べるが、第33項には南アフリカがイスラエルを相手に起こした国際司法裁判所の手続きが明記されている。
したがって、中東に触れるが国名は挙げない、という旧見出しと説明は修正する。特定の項目が米国を名指ししていないことと、中東の節全体が国名を出していないことは同じではない。話題ごとに文面を確かめず、一つの表現上の特徴を全文へ広げないことが必要だ。
また、第33項が裁判所の措置に言及することから、編集部が訴訟全体の最終結論まで確認したとも言えない。本稿は宣言がどう言及したかを点検する記事であり、個別の司法判断の全経緯を解説するものではない。宣言の要約と法的な判断を混ぜないよう、記述の範囲を限定する。
5. 炭素国境調整への批判と、制度の実施を分ける
第108項は、炭素国境調整の仕組みなどを挙げ、国際法に整合しない一方的・差別的・保護主義的な措置に反対する。その表現は、気候政策が貿易へ与える影響への懸念を読む手がかりとなる。ただし、全ての環境政策を否定した、特定制度の廃止を決定したと要約することはできない。
日本から読む際にも、どの輸出品や取引に何が起きるかを、この項目だけで計算することはできない。実際の制度の対象、排出量の扱い、適用時期、事業者に求める手続きは別資料で確認する事項だ。共同の批判があることを紹介する段階と、個々の負担を算定する段階を分ける。
通商と環境の論点が離れた番号にあることも、宣言の読み方を考える材料となる。第20~22項だけで全通商政策を網羅したとは言えない。他方、いくつかの項目が関連するからといって、全140項目のテーマ分類や字数比率を調べたと称することもしない。
6. 中国議長国への支持は、来年の文面の予告ではない
第139項はインド議長国への謝意、第140項は2027年の中国議長国と中国での第19回首脳会議への支持を記す。ここまでは本文で確認できる。しかし、次の議長国が決まったことを、議題や共同宣言の全内容を一国が決めるという説明には置き換えない。
旧稿は、来年もウクライナが書かれない可能性が高いと予測した。今回の非掲載と次の議長国だけでは、その確率を判断できないため撤回する。前年に言及があった例も踏まえ、翌年の文案や交渉に関する根拠がない段階で、今年の文章を将来へそのまま延長しない。
予測を取り除くと読みどころがなくなるわけではない。各国の立場を留保する表現、名指しする問題と一般的な主張、実行に向けた動詞の違いを追うことで、合意の広さと具体性は読める。未公表の交渉を推測で埋めるより、確認できる文章の境界を示すほうが、次の会議との比較にも役立つ。
独自の視点――語の不在より、立場と実行の差を追う
編集部が重視するのは、ウクライナという語がないことを発見の終点にしない読み方である。前年には言及があり、今年は特定の語がなく、別の地域については具体的な記述がある。この違いは比較できるが、それだけで非掲載の原因や加盟国の意図を確定できない。
次に追うなら、同じ争点について、前年の表現、今年の表現、各国が後に公表する行動を対応させたい。WTO改革なら要求がどの手続きに結び付いたか、通商措置なら批判の後に交渉や適用がどう変わったかを確認する。これは編集部の検証案で、今回の宣言から実行の成果が既に判明したという意味ではない。
宣言の文量は、合意の重さとも政策の効果とも同じではない。多くの項目があっても実施は別に確かめる必要があり、ある語がなくても各国の立場を無かったことにはできない。共通の文章、個別の立場、実際の行動を三つに分ける。それが、大きな枠組みを一枚の反米声明や沈黙の理由に縮めず読むための、今回の比較からの独自の視点である。
訂正・補足(2026年10月10日):項目番号と日本語要約は公式英文に基づくとの旧注意を保持。第1~140項の連番とUkrainの語幹0件を再確認した。2025年宣言にウクライナへの言及があること、2026年第33項がイスラエルを名指ししていることを補足し、ロシアの参加だけを非掲載の理由にする説明と、中東でも国名を出さないという一般化を訂正した。交渉経緯や来年の非掲載を推測する断定を撤回。旧内部メモは履歴として保存し、訂正後の本文を優先する。
[文・構成=編集長 麻生 矩暉]
出典とメモ
- インド首相府:2026年ニューデリー宣言。スクリプト・スタイル・ナビゲーション・関連記事を除き、第1項の冒頭から第140項の末尾までを検索対象とした。番号は1~140の連番・重複なし。Ukrainを大文字小文字を区別せず検索して0件を確認。第1・20~22・30~34・108・139~140項を重点照合。日本語要約は編集部による。
- インド首相府:2025年リオデジャネイロ宣言。ウクライナに関する各国の立場と対話・外交への言及を確認。比較表は両宣言を基に作成。全年度・全言語・全声明の比較ではない。
- 旧出典の時事通信、日本経済新聞、NHKへのリンクは参照履歴として保持する。今回の国名・語の不在・項目番号の確認は公式英文に依拠する。
- 全文検索は語の有無を確かめる方法で、全140項目の意味・引用法令・司法手続きの全検証ではない。加盟国の全意図、採択の全手続き、交渉経緯、各国の全声明、個別措置の適法性と実施効果、2027年の内容は未確認。最後の対応比較は編集部の分析で、未実施の取材や成果検証とは称しない。














