国土交通省は9月15日、7月1日時点の基準地価(都道府県地価調査)を公表した。全国の全用途平均は1.5%上昇し、5年連続のプラスとなった。最高価格地の東京・銀座は1平方メートルあたり5250万円で21年連続の首位、上昇率は11.9%に達した。その一方で、名古屋圏と札幌・仙台・広島・福岡の「地方4市」は上昇幅が縮んだ。同じ「上昇」の中で、地域ごとの速度の差が開き始めている。
1. 基準地価とは何を測る数字か
基準地価とは、都道府県知事が毎年7月1日時点の土地の価格を1平方メートルあたりで調べ、公表する指標である。根拠は国土利用計画法の施行令で、今年の基準地数は全国2万1466地点で、このうち10地点は原発事故の影響で調査を休止した。よく似た数字に、1月1日時点を国が調べる公示地価がある。二つは調査の時点が半年ずれており、共通地点を用いれば、1月1日の公示地価と7月1日の基準地価で半年ごとの動きを補完できる。7月の価格が、その後の年後半の値動きを示すわけではない。土地の売買や相続の場面で、値段の目安として参照されることも多い。
調べる地点の多くは住宅地と商業地で、ほかに工業地や林地も含まれる。変動率は、前年から続けて調べている地点どうしの価格を比べて計算する。同じ場所を追いかけるため、景気や人の流れの変化が数字に表れやすい。
2. 全国平均は「上がり続けているが、加速はしていない」
全国平均の中身を用途別に見る。全用途平均は1.5%、住宅地は1.0%、商業地は2.9%の上昇で、いずれも5年連続のプラスだった。ただし全用途平均と住宅地の上昇幅は前年と同じで、商業地の拡大も0.1ポイントにとどまる。国交省は「全体として上昇基調が続いている」と総括した。数字をそのまま読めば、地価は上がり続けているが、上がる速さは増していない。住宅新報はこれを「一服感」と表現している。
用途の間の差にも目を向けたい。商業地の2.9%は、住宅地の1.0%のおよそ3倍にあたる。商業地の価格は、店舗やホテル、オフィスがどれだけ稼げるかで決まる。住宅地の価格は、そこに住む家計がどれだけ払えるかで決まる。訪日客の消費や企業の収益が伸びる局面では、前者が先に上がる。賃金の伸びが物価に追いつききれない家計にとって、住宅地の値上がりが鈍いのは、支払える額や借入条件も一つの観点になる。ただし、全国の用途別平均だけでは家計の支払い余力が原因だと確定できない。
3. 銀座の5250万円は何を映しているのか?
全国の最高価格地は東京都中央区銀座2丁目の基準地「中央5-13」で、公式高順位表は2025年4690万円、2026年5250万円/㎡と示す。差は560万円/㎡、560÷4690=約11.9403%で、公表変動率11.9%は丸めた値である。丸めた上昇率から前年価格を逆算するより、両年の実数を使う方が正確だ。1坪を400÷121㎡として換算すると5250×400÷121=約1億7355万円/坪となるが、実際の坪単位の売買価格ではない。
4. 名古屋圏と地方4市では、何が起きているのか?
三大都市圏の全用途平均は4.4%の上昇で、上昇幅は0.1ポイント広がった。東京圏と大阪圏はいずれの用途でも上昇幅が拡大した。ところが名古屋圏は全用途平均が1.9%の上昇にとどまり、上昇幅は0.2ポイント縮んだ。地方4市はさらにはっきりしている。全用途平均は4.1%の上昇を保ったものの、上昇幅は1.2ポイント縮み、縮小は3年連続になった。地価はまだ上がっている。しかし、この数年で最も勢いのあった地方の中核都市から、先に熱が引き始めている。
5. 建築費はなぜ地価の重しになるのか
住宅新報は減速の背景に、建築コストの増大による住宅需要の縮小と、都市開発計画の鈍化を挙げる。しくみを単純に言えば、こうなる。事業者が土地に払える金額は、完成した建物の価値から建築費と利益を差し引いた「残り」で決まる面がある。建物の売値が伸び悩むなかで建築費だけが上がれば、土地に回せるお金は減る。高く売れる都心の一等地や観光地では吸収できても、価格の上限が低い地方都市ほど、この圧迫を受けやすい。
この構図は、地価が上がっているかどうかだけを見ていると気づきにくい。上昇が続く地域でも、上昇幅の縮小は、買い手の予算だけでなく、前年の高い伸びや地域の需要変化なども考慮して読む必要がある。地方4市の縮小が3年続いているという事実は、一時的なぶれではなく、流れが変わりつつあることを示している可能性がある。
6. 地方圏の「その他の地域」は0.2%
三大都市圏を除く地方圏の全用途平均は0.4%の上昇で、上昇幅は2年連続で前年と同じだった。地方4市を除いた「その他の地域」は0.2%の上昇である。ほぼ横ばいに近い。ただし地点別の上昇率では、長野県の白馬村や野沢温泉村、東京・浅草など観光地が上位の多くを占めた。訪日客の需要が届く場所と届かない場所で、地方の中でも差が広がっている。地方をひとまとめにした平均は、その差を打ち消して見せてしまう。
観光地の地価が上がるしくみは、都心の商業地と似ている。宿泊施設や飲食店が高い売上を見込めれば、その分だけ土地に高い値段を付けられる。ただし観光需要は為替や海外の景気、航空便の数に左右されやすい。地元に住む人の所得とは別の力で地価が動くため、住宅を探す住民の側では、家賃や土地代の上昇が暮らしの負担として表れることもある。
7. 私たちはこの数字をどう読めばよいか
今回の基準地価は、日銀が政策金利を1.25%に引き上げる前の7月1日時点の価格である。金利の上昇は住宅ローンの負担を通じて、住宅地の需要に遅れて響く可能性がある。全国平均の「5年連続上昇」という見出しだけでは、名古屋圏や地方4市で進む減速は見えない。高額な商業地や観光地の強さと、地方中核都市の上昇率の鈍化が併存している。ただし、全国平均への寄与をこの資料だけで銀座の価格水準に帰することはできない。今回の数字から読み取れるのは、その二つの速度が同時に進んでいるという構図である。
地価の上昇は所有者の資産を考える参考になるが、全国平均の伸びが自分の土地にも当てはまるわけではない。税務上の評価も別である。相続・贈与による土地の評価は、原則として路線価方式または倍率方式で、土地の形状や利用なども考慮する。固定資産税の評価額と課税標準も基準地価そのものではない。基準地価に面積や税率を掛けて自分の税額を求めず、国税庁の評価資料や自治体の課税明細をそれぞれ確認する必要がある。
独自の視点――価格の下落と上昇率の縮小を分ける
全国平均の上昇率だけでは、住宅地・商業地・工業地の違いや、地点ごとの利用状況は見えない。国土交通省が公表する基準地価は、都道府県が毎年7月1日時点で調査する価格であり、前年比の数字は個別地点の変化の集計である。銀座のような商業地の水準をそのまま家計の住宅購入環境に重ねず、地域、用途、交通利便性を分けて見る必要がある。
国土交通省・令和8年地価調査概要を基に作成。差は公表値による編集部計算
| 全用途平均の地域区分 | 2025年 | 2026年 | 差(ポイント) |
|---|---|---|---|
| 全国 | 1.5% | 1.5% | 0.0 |
| 三大都市圏 | 4.3% | 4.4% | +0.1 |
| 名古屋圏 | 2.1% | 1.9% | −0.2 |
| 地方四市 | 5.3% | 4.1% | −1.2 |
| 地方圏のその他 | 0.2% | 0.2% | 0.0 |
例えば地方四市の5.3%から4.1%への変化は、価格が1.2%下がったことではなく、上昇率が1.2ポイント縮小したことを意味する。国交省のエリア平均は、継続基準地の変動率の単純平均であり、土地面積や取引額で重みづけした平均ではない。高価格地点の取引が全国の価格水準を何円押し上げたかも、この平均からは計算できない。自分の地域を比べる際は、調査年、基準地番号、用途、同じ地点が継続しているかの四つをそろえるのが有効である。
訂正・補足(2026年10月9日):国交省の概要と高順位表で主要数値を照合し、銀座の前年価格を逆算ではなく実数で示した。7月の価格を年後半の動きとする説明、地価と税務評価を混同する表現を改めた。地域の減速理由は報道の分析や編集部の推論であり、平均の数字だけから原因を特定していない。
[文・構成=編集長 麻生 矩暉]
出典とメモ
2026年10月9日、国交省・令和8年地価調査概要の全国・圏域別表と、基準地価格高順位表の中央5-13を照合した。比較表は概要を基に作成。平均の方法は関係データの注記1、相続・贈与の評価は国税庁No.4602を確認した。差額・率・坪への換算は編集部計算である。














