こども家庭庁は、令和9年度税制改正の見直し事項として、結婚・子育て資金の一括贈与に対する非課税措置の廃止を要望している。その自己点検資料には「令和7年:219件」と記載されている。従来稿の「2025年度219件」は、資料の年表記に合わせて「2025年219件」に訂正する。国税庁の案内で確認できる現行の適用期間は2027年3月31日までである。廃止の要望、現行制度の期限、家族からの援助全般の税務は分けて読む必要がある。
1. 廃止方針と、いま使える制度は別である
制度を終えるというニュースが出ても、それだけで当日の税の扱いが変わったことにはならない。国税庁のNo.4511は、2026年4月1日現在の法令等に基づき、2027年3月31日までに行われる一定の資金取得を対象としている。現行の期限が来ることと、期限を延長しない方針、法律や手続きの具体的な変更は区別すべきだ。既に利用している口座の扱いも、制度の新規利用の終了と一括りにはできない。
財務省掲載のこども家庭庁の要望書1ページ目は、2027年3月31日の期限到来で特例を廃止し、同日までに拠出された金銭等には引き続き特例を適用できるよう求めている。新規の資金拠出を終えることと、既に拠出した分の適用を続けることを区別した要望である。ただし、この書類は税制改正の要望であって、廃止を定めた改正法の成立を示す資料ではない。本稿で廃止の最終決定まで確認したとはしていない。
2. 1000万円は給付額ではなく非課税の上限
現行制度は、18歳以上50歳未満の子や孫等が、父母や祖父母等の直系尊属から、金融機関等との管理契約に基づいて一定の資金を取得する場合の仕組みである。金融機関を経由した非課税申告書の提出等によって、1000万円までの一定の資金取得について贈与税を非課税とする。前年の合計所得金額が1000万円を超える場合には適用を受けられない。これは政府が若い世代に1000万円を支給する制度ではない。
したがって、制度の上限と、実際に家計が受けた援助額は同じ数字ではない。親や祖父母が資金を渡せること、受け取る側が要件を満たすこと、所定の契約と手続きを使うことが重なる場面の制度だ。上限が大きいことだけで支援の厚さを評価すると、そもそも援助する資金がない家庭が評価から抜け落ちる。他方、上限額を使った家庭だけが利用者だと決め付けることもできない。
3. 219件から分かること、分からないこと
要望書2ページ目の自己点検には、利用件数が2023年217件、2024年253件、2025年219件と記載されている。2025年は前年より34件、約13.4%少ない(計算は〈219−253〉÷253×100、小数第1位に丸めた)。ただし、2023年よりは2件多く、この3年だけを取り出して毎年減り続けたとは言えない。これは所管庁の自己点検に記載された年別利用件数を直接確認した結果であり、金融機関別の元集計まで検証したものではない。資料には一件を数える詳しい単位や対象期間の月日が示されていないため、219人・219世帯と読み替えず、「年度」の値とも扱わない。
使える年齢の人全体を分母にして利用率を出すことも、この制度では慎重であるべきだ。直系尊属からの資金提供の可能性や、支出の時期などを考えずに分母だけ広げれば、利用率は当然小さく見える。一方、利用した人だけを見れば、使いたかったのに条件に合わなかった人は見えない。利用の少なさを論じるには、制度の入口に立てる人と、入口で離れた人を分けて調べる必要がある。
領収書等の確認や対象費用の区分があることは、こども家庭庁の案内で確認できる。しかし、それが利用低迷の主因だったとするには、利用しなかった人への調査や、手続きを変えた前後の比較が必要だ。従来の本文にあった、高資産の家庭ほど受け手の所得が高いという推測も、本稿で確認した資料では裏付けられない。条件の存在、利用者の特徴、低利用の原因を同じものとして扱わない。
4. 一括贈与の特例と、都度の生活費援助を比べる
重要なのは、この特例が家族からの援助に関する唯一の非課税扱いではない点である。国税庁No.4405では、扶養義務者から生活費や教育費に充てるために受け取る財産で、通常必要と認められるものを非課税としている。ただし、必要な都度、直接その費用に充てるものに限られ、預金に残したり他の資産の取得に使ったりする場合は別の扱いになる。名目を「生活費」にすれば何でも非課税になるという意味ではない。
国税庁No.4511・No.4405の案内を基に作成した制度比較
| 比較する点 | 結婚・子育て資金の一括贈与の特例 | 通常必要な生活費・教育費の援助 |
|---|---|---|
| 資金の渡し方 | 所定の管理契約等に基づく一括取得 | 必要な都度、直接費用に充てる |
| 確認の中心 | 年齢・所得・契約・所定の申告等 | 扶養義務者との関係、必要性、実際の使途 |
| 混同してはいけない点 | 1000万円は政府からの給付ではない | 将来のための貯蓄も自動的に非課税になるわけではない |
この区別から、特例の終了後はすべての家族援助が年110万円の枠などに戻る、という以前の説明は修正が必要になる。一括して将来の費用を預けることと、その都度の必要な費用を負担することでは、確認する条件が異なる。ただし、どの費用や資金移動が実際に該当するかは個別の事情による。本稿は節税手段を勧めるものではなく、具体的な契約や申告は金融機関・税務署・税理士等への確認が必要である。
5. 終了時の残高を、直ちに全額課税と決め付けない
国税庁の制度案内は、契約期間中の贈与者の死亡や、管理契約の終了時には、相続税または贈与税がかかることがあると説明している。従来の本文のように、残高があれば必ず税額が発生する、死亡時も同じ税の扱いになると断定するのは適切でない。何が課税の対象に含まれるかと、控除や他の条件を含めて最終的な納税額が発生するかは、別の問題である。
契約を開始した時期、資金を追加した時期、終了の事情を確認せず、税率だけを紹介することも避けたい。本稿では個々の契約に対する税額計算や、全ての経過措置の判定は行っていない。制度の終了が報じられたとき、既存利用者が最初に確認すべきなのは、見出しから想像した一律の結論ではなく、自分の契約に対応した現行の案内である。
6. 政策効果は、利用件数だけでは決まらない
こども家庭庁の自己点検は、認知率、生計負担が軽くなったとする利用者の割合、理想のこども数を持たない理由という異なる指標を設け、政策効果は限定的との評価を示している。ここは行政自身の評価として読める一方、利用件数だけから出産増減との因果関係を証明したものではない。利用の広がりと、利用したことで生まれた変化は別である。援助の時期が前に動いたのか、家計の不安が減ったのか、予定していた支出の経路だけが変わったのかを分ける必要がある。
予算との比較にも同じ注意がいる。税の優遇によって減る税収と、現金給付の支出額は、同じ金額の欄ではない。特例を終えればその分がそっくり別の給付に移る、とする資金の流れも確認していない。比較には、税負担の軽減額、事務費、受益者の条件、他の支援との重なりが必要だ。大きな予算額と小さな利用件数の対比だけで、財源の移し替えや政策の優劣まで説明したことにはならない。
独自の視点――届く前の条件と、届いた後の変化を分ける
編集部は、この制度を読む軸を二つに分ける。第一は援助する家族の資力や契約要件という「届く前の条件」、第二は資金が移ったことで生活がどう変わるかという「届いた後の変化」である。これは公式資料の結論ではなく、制度の条件と報道の件数を混同しないための編集部の分析だ。利用率を上げる工夫と、援助を受けにくい家庭を支える工夫は、同じ課題ではない。
例えば、同じ子育て費用を負担する二つの家庭でも、将来の費用をまとめて預けられる家族がいるかどうかで、一括贈与の特例の入口は異なる。この設定例は実際の取材例ではない。制度の上限を引き上げる議論だけでは、入口に立てない家庭への支援は説明できない。一方、特例を使わず、その都度の援助で費用を負担している家庭もあり得るため、特例の契約件数が家族援助全体の件数を表すとも言えない。
廃止を評価するときには、入口の違いを埋める別の支援がどう設計されるかと、既存利用者の契約がどう扱われるかを別々に見るべきだ。前者は支援の公平性、後者は制度を利用してきた人の予見可能性に関わる。大きな枠を畳むことだけを改革の成果とせず、誰のどの支出に支援が届き、誰には届かなかったかを測る。それが、所管庁の自己点検に載った219件を、印象的な数字で終わらせない読み方である。
訂正・補足(2026年10月9日):一括贈与の特例と、通常必要な生活費・教育費を都度援助する場合の非課税扱いを区別した。残高への課税を一律に断定する説明と、利用が少ない原因の断定を修正した。219件と廃止方針は報道に基づく情報で、利用統計の原表と廃止の最終決定は本稿では未確認である。
補足(2026年10月16日):上記10月9日の訂正時点では未確認だった件数について、財務省掲載のこども家庭庁の要望書2ページ目を確認した。2025「年度」ではなく資料の「令和7年」に合わせて表記を訂正し、年別件数と前年との差を追記した。廃止は同要望書で確認できる要望として扱い、最終決定や金融機関別の元集計を確認したとはしていない。
[文・構成=編集長 麻生 矩暉]
出典とメモ
- 国税庁No.4511:結婚・子育て資金の一括贈与の非課税。現行の適用期間・年齢・所得・申告と、終了時等に課税が生じ得ることを確認した。
- 国税庁No.4405:贈与税がかからない場合。扶養義務者からの通常必要な生活費・教育費と、必要な都度直接充てる条件を確認した。
- こども家庭庁:結婚・子育て資金の一括贈与の案内。制度の目的と、費目・領収書等の確認資料の案内を確認した。各費目や経過措置の全項目判定は本稿の照合範囲外である。
- 日本経済新聞:結婚・子育て資金の贈与税優遇廃止へ。従来稿が参照した報道。今回の件数と廃止要望の確認は、下記の公式要望書による。
- こども家庭庁:令和9年度税制改正見直し事項(廃止・縮減)。財務省掲載の全2ページを確認。1ページ目の廃止要望と既拠出分への継続適用の要望、2ページ目の2023年217件・2024年253件・2025年219件と自己点検を基に作成。前年との差は記載件数から編集部が計算した。詳細な計数定義・金融機関別元集計と、廃止の最終決定は未確認である。














