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東京の物価1.8% 新旧基準と前年比・前月比を分けて読む

生鮮食品売場と買物かご、匿名の買物客を描いたAI生成イラスト。実際のCPIや相場を示す図ではない

東京23区の8月の物価上昇率は1.8%。7月の速報で見た1.9%より低いのに、前月より伸びが拡大したという報道もある。これは数字の矛盾ではなく、比べる系列が違うためだ。2025年基準の公式表では7月が1.7%、8月が1.8%となる。ただし、前年比の伸び率が0.1ポイント拡大したことと、7月から8月に物価が何%動いたかは別の問いである。基準、比較期間、速報か確報かをそろえて読む必要がある。

1. 1.8%は、何を除き何と比較した数字か

総務省の公表予定では、東京都区部の2026年8月分中旬速報値の公表は8月28日である。東京都の8月資料は、2025年平均を100とする指数を掲載する。総合の前年同月比は1.9%、生鮮食品を除く総合は1.8%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合は2.0%だ。いずれも2025年8月との比較であり、今年7月からの変化率ではない。

東京都「東京の物価」2026年8月分の概況を基に作成。指数は2025年平均=100。前年比と季節調整した前月比は比較期間・処理が異なる。

2025年基準・8月中旬速報指数前年同月比前月比・季節調整値
総合102.4+1.9%+0.2%
生鮮食品を除く総合102.3+1.8%+0.1%
生鮮食品及びエネルギーを除く総合102.6+2.0%+0.3%

生鮮食品を除く総合は、ニュースでコア指数と呼ばれる系列である。生鮮食品を外しても、加工食品やエネルギーは残る。エネルギーも外した系列なら全ての一時的な影響が取り除かれるわけではない。どれが唯一正しい数字かを競わせるのではなく、除外範囲によって見える動きが変わると理解すべきだ。

また、この数字は東京都区部のもので、全国全体や各家計の支出額の変化そのものではない。東京の速報は全国結果より先に公表されるが、地域と集計範囲が異なる。東京の結果をそのまま全国の確定値と呼ぶことや、全ての商品が一律に1.8%値上がりしたとする読み方は避けたい。

2. 新基準の7月1.7%は、公式表で確認できる

東京都の7月速報資料は2020年基準で、生鮮食品を除く総合の前年同月比を1.9%と記す。一方、8月資料の第1表CSVにある2025年基準の7月確報は1.7%、8月中旬速報は1.8%である。旧稿はNHKの表現から7月1.7%を逆算したと注記していたが、今回はその値を公式表の行で直接確認した。

東京都7月・8月資料と8月第1表CSVを基に作成。新旧の差を全てウエイト変更の効果と分解した表ではない。

比べる資料7月・生鮮食品を除く総合の前年比8月の前年比読めること
旧基準7月速報と新基準8月速報1.9%・2020年基準1.8%・2025年基準基準と速報・確報の条件がそろわない
8月資料の新基準系列1.7%・7月確報1.8%・8月中旬速報同じ基準の公表伸び率差は+0.1ポイント

計算は1.8-1.7=0.1ポイントである。これは前年比という率同士の差だ。8月の季節調整前月比+0.1%とは数字が同じでも意味が違う。前者は去年の各月に対する伸びの違い、後者は季節的な動きを調整した7月から8月への指数の変化を表す。単位を省くと、別の現象が同じ一つの変化に見えてしまう。

旧基準1.9%から新基準1.7%への差には、基準の違いに加えて、速報と確報という資料の条件の違いもある。取得した表だけで0.2ポイントの全てを特定品目のウエイト変更に割り振ることはしない。また、1月から8月まで新基準の系列を見ると、1月は2.0%、2月以降8月までは2%未満であり、7カ月連続という範囲はこの表で確認できる。

3. 基準改定は、100という数字の付け替えだけではない

統計局のQ&Aは、基準年を5年ごとに更新し、採用品目とウエイトなどを見直すと説明する。家計が購入する商品やサービスの組み合わせは時代とともに変わるためだ。2025年基準では、指数の基準時とウエイトの参照年次を2025年とする。物差しの起点だけでなく、何にどれだけ支出する家計を想定するかも更新される。

簡単な設定例で考える。値上がりする品目Aの支出割合が10%から20%へ増え、他の条件が同じなら、Aの価格上昇は全体へより強く反映される。ただし実際の改定にはウエイト効果だけでなく、指数の基準時の更新によるリセット効果、モデル式や品目の変更もある。これは仕組みの説明であり、今回の東京の差を算出した実測例ではない。

統計局は、長期比較用の接続指数について、過去の指数を換算する一方、変化率は各基準で公表した値をそのまま使うと説明する。また2025年の前年同月比などには旧基準による値を用いる。新基準の表に載っているから全ての過去の変化率が新しい重みで再計算された、と一括して言うことはできない。期間と注記を読むことが大切だ。

4. 上昇率が低くても、生活の全てが楽になったとは言えない

8月の東京都資料では、食料の前年同月比は3.9%上昇、光熱・水道は1.6%下落である。第4表CSVでは電気代が2.4%下落、ガス代が1.4%下落となる。総合の数字は異なる方向の動きをまとめたものだ。食費の負担が気になる家計にとっては、総合だけでなく食料の動きにも目を向ける意味がある。

資料の寄与度欄では、外食が総合の前年同月比を0.31ポイント押し上げ、家賃が0.46ポイント押し上げる一方、保育所保育料などを含む「他の諸雑費」は0.49ポイント押し下げている。0.49は分類全体の寄与であり、保育料一品目の寄与と同一視しない。品目の値下がり率と分類の寄与度も単位が違う。

電気・ガス支援などで支払価格が変われば、物価指数にも影響し得る。しかし、この表だけから下落の全てを補助に帰したり、補助が終わると必ず翌年同月に上昇率が跳ね上がると断定したりはできない。比較する前年の価格、燃料費、料金制度、支援の実施時期が関わる。今回は支援の全契約・料金への影響量までは検証していない。

5. 2%を境に、暮らしや金融政策が自動的に切り替わるわけではない

日本銀行は2013年1月に、消費者物価の前年比上昇率2%を物価安定の目標とした。公式の解説は、家計が消費する財・サービスを包括的に捉える消費者物価指数の総合が重要だと説明する。東京の生鮮食品を除く総合が2%を下回ったという一つの数字を、全国の物価目標達成の可否そのものへ置き換えない。

旧稿は、1.8%と2.0%の違いを家計がほとんど感じない、政策当局は目標の上下の線に縛られると断定していた。このような一律の評価は撤回する。個々の所得、支出構成、価格の水準によって負担は違う。利上げの時期も、東京の一つの率や求人倍率だけから決められるものではない。人手不足が必ず同じ幅の賃上げにつながるとも限らない。

検証の順番は、まず地域と除外範囲、次に基準年と速報・確報、さらに前年比か前月比かを確認することである。その後に費目と寄与度を見る。公表指数は丸められているため、その指数から計算した変化率が公表変化率と完全に一致しない場合もある。独自計算を示す際には、何を引いたか、丸めた公表値を使ったかも明記する。

独自の視点――伸び率の改善と、財布の負担を分けて見る

編集部が今回の比較から重視するのは、伸びが鈍ったかという問いと、生活費が戻ったかという問いを分けることだ。前年比がプラスなら、上昇率が前年より小さくても、比較対象の前年同月より価格水準は高い。1.8%という見出しだけで値下がりや負担の解消を語ると、買い物で感じる高さと統計の説明がすれ違う。

例えば、価格水準を100から110、次に112へとした設定例では、最初の上昇率は10%、次は(112÷110-1)×100=約1.82%だ。伸びは大幅に鈍るが、最初の100には戻らない。これは東京の実際の時系列ではなく、率と水準の違いを再現できる形で示した計算例である。

さらに同じ総合の率でも、食料を多く買う家計、家賃を支払う家計、保育料の変更が関係する家計では、影響が異なる。今回の公式表はそうした違いを考える入口であり、各家庭の負担を測った調査ではない。統計を信じるか実感を信じるかの二択ではなく、何を平均した統計かを確かめ、自分の支出のどこが動いたかへ戻る。その接点を示すことが物価記事の役割である。

訂正・補足(2026年10月11日):新基準7月1.7%は報道からの逆算ではなく東京都8月公式CSVで確認した。旧基準7月速報との条件の違い、前年比の率の差と前月比を区別した。保育料と分類全体の寄与を分け、補助終了で必ず翌年に跳ね上がる、2%目標に絶対的根拠がない、家計は差をほぼ感じないという一律の説明を撤回。市場の利上げ観測は日銀の決定ではなく、本稿では時期を予測しない。

本稿は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではない。

[文・構成=編集長 麻生矩暉]

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