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厚労省36兆5803億円の要求を読む 国庫負担・投資枠・国債費の違い

無地の予算資料ファイルと架空の医療施設を描いたAI生成イラスト。実際の厚労省予算資料や要求額の比較図ではない

厚生労働省の2027年度一般会計の要求額は36兆5803億円。財務省の集計にある国債費36兆6386億円と近い大きさである。ただし、この二つは社会保障全体と利払い全体の対比ではない。片方は省の一般会計の要求、もう片方は国債の償還などを含む費用であり、どちらも決算ではない。金額の近さを入口にして、会計の範囲、内数、予算編成で残る検討事項を分けて読む。

1. 36兆5803億円は、決まった支出ではなく要求である

厚生労働省の「令和9年度予算概算要求の概要」の総括表は、一般会計の要求365,803億円、前年度当初350,433億円、増加15,370億円を示す。年度を西暦に直すと2027年度と2026年度である。比較の相手は2026年度当初予算であり、補正後の総額や、実際に使った決算額ではない。

再計算すると、365,803-350,433=15,370億円、15,370÷350,433×100=約4.39%の増加となる。これは要求を当初予算と比べた率で、社会保障の給付が全て4.39%増えるという意味ではない。同じ数字でも、何と比較しているかを省くと、将来の給付や現場の賃金が確定したかのように見える。

資料は計数整理で異同が生じることがあると注意を付け、重要政策について事項のみの要求も含め予算編成過程で検討すると記す。事項要求は金額が決まっていない部分を残す仕組みである。要求段階の合計が、その年度に最終的に必要となる費用を全て金額化したものだとは限らない。

2. 投資枠は総額の外に積み上げない

厚労省「令和9年度予算概算要求の概要」総括表を基に作成。投資枠は裁量的経費の内数。金額は四捨五入され、表示値の差・合計が表の計数と一致しない場合がある。

一般会計の区分・億円2026年度当初2027年度要求表の増加額
一般会計計350,433365,80315,370
年金・医療等に係る経費333,475336,8723,397
裁量的経費7,30018,42611,125
うち「強く豊かな日本」投資枠―10,33710,337
義務的経費・年金医療等を除く9,65810,506848

投資枠10,337億円は、一般会計の365,803億円へ追加する別の支出ではない。表では裁量的経費の中に置かれている。365,803+10,337と足すと、同じ金額を二度数えることになる。政策の見出しで新設の枠が強調されるときほど、内数か外数かを確かめたい。

裁量的経費は表示値を引くと18,426-7,300=11,126億円だが、原表の増加額は11,125億円である。資料の四捨五入の注意に従い、本稿の表は原表の増加欄を採った。1億円の違いを資料の矛盾と断じたり、表示値に合うよう勝手に公表額を書き換えたりしない。再現計算と公式値を分けて示す。

3. 医療・介護・年金の約76%は、国全体の給付比率ではない

概要の重点要求では、各医療保険制度などに関する医療費国庫負担が10兆7141億円、介護費国庫負担が3兆2243億円、持続可能で安心できる年金制度の運営が13兆8263億円と示される。合計は27兆7647億円、一般会計要求の365,803億円で割ると約75.90%となる。旧稿の約76%という算術は確認できる。

ただし、この三項目の名称を単に医療費、介護費、年金給付総額と短縮してはいけない。国庫負担と、保険料なども含む制度全体の支払いは同じではない。また総括表の「年金・医療等に係る経費」は33兆6872億円で、今の三項目の合計とも異なる。分類の範囲をそろえずに差額を未説明の浪費と呼ぶことはできない。

同じ概要には年金特別会計の要求75兆8518億円など、別会計の表もある。一般会計と特別会計の数字を単純に足して厚労省の支出全体とすることはしない。資金の移し替えや表の純計の条件を確認する必要がある。省の要求額を、社会保障のほぼ全ての費用とした旧稿の説明は広すぎた。

自然増の説明にも条件がある。総括表の注記は、年金・医療等について当初予算にいわゆる自然増を加算した範囲内で要求し、編成過程で高齢化による伸びに経済・物価動向等への対応を加算すると記す。総額の増加から自然増だけを引けば残りが全て新規事業になる、とする二分法では、既存経費の見直しや投資枠の構成を説明できない。

4. 創薬・感染症対応・医療DXは、同じ括りではない

厚労省概要の重点要求と参考資料を基に作成。各行を独立した支出として合計しない。括弧内の前年度額や内数、事項要求の注記を区別した。

概要内の表示金額・億円読む際の条件
創薬・先端医療の参考資料1①1,969+事項要求うち投資枠1,883、医薬品・医療機器の主要施策
感染症危機対応医薬品等の確保支援等・重点要求4,157+事項要求うち投資4,103
医療クラウド・サイバー強化、病院DX、データ連携等2,561+事項要求投資枠計上分のみ、サイバー単独ではない
医療DXの参考資料1③934+事項要求うち投資枠928、上の大括りと同一範囲ではない

創薬の約2000億円という旧説明に対して、参考資料は1,969億円に事項要求を加える形を示す。創薬スタートアップの支援、人材、治験、AIを用いた創薬や審査などを含むため、全額がAIだけへ配られるわけではない。計画された研究・支援が、医薬品の上市や患者への到達を既に実現したという資料でもない。

感染症対応の重点要求4,157億円は原表で確認できる。一方、参考資料のMCM確保支援は2,129億円に事項要求という別の表示だ。大括りの施策と参考資料の集計範囲を無視して、二つを上乗せしてはいけない。今回は両者の全事業コードを対応させた重複除去までは行っていない。

最も注意したいのは2,561億円の名称である。サイバー対策だけでなく、クラウド型電子カルテ、病院DX、全国的なデータ連携などを含む投資枠計上分だ。医療DXの参考資料934億円には、カルテ普及約604億円、外部接続点の点検・適正化約132億円、人材活用・育成約5億円などが並ぶ。旧稿の約2500億円全額をサイバー対策とする説明は修正する。

5. 国債費との差583億円は、役割が同じという証拠ではない

財務省9月4日集計の国債費は366,386億円で、厚労省要求との差は366,386-365,803=583億円となる。金額は確かに近い。しかし国債費を利払い費だけと呼んだり、厚労省の支出と交換可能な一つの財布として比較したりはできない。国債費には償還なども含まれ、国債管理と給付・事業では役割が異なる。

旧稿の想定金利3.8%、利払い16兆5888億円、27.2%増は、今回取得した集計表だけでは算定原本まで確認できないため、この比較の根拠から外した。金利の変化が既存国債全ての支払いへ即時に一律反映されるとも言えない。借換えや年限の構成を確かめず、金利上昇だけで国債費の増加全額を説明しない。

編成過程に残る事項も追う必要がある。厚労省資料は薬価改定、介護報酬改定などへの対応を検討すると記す。要求しただけで削減も賃上げも確定しない。年末の政府案、国会の審議・議決、執行の実績を同じ事業の範囲で比較して初めて、要求がどのように採用され、何へ届いたかを評価できる。

独自の視点――大きな総額より、支出から成果へ渡る接点を見る

編集部の見方では、この要求の読みどころは二つの36兆円の競争ではない。制度を維持する費用と、仕組みを変える投資が同じ資料にあることだ。例えば医療DXでは、システムへの支援があっても、現場の運用や人材、接続先との調整ができなければ目的の連携には到達しない。予算額と導入件数だけで安全性や負担軽減を証明することはできない。

創薬でも、研究へ資金を出した数と、治験へ進んだ数、承認を得た数、必要な患者へ供給された数は別である。これらを同じ年度・対象で追える資料があるかを見ることを、検証の次の一歩とする。これは本稿で事業成果を全件調査した結論ではなく、要求書の項目を比べて導いた編集部の評価方法である。

総額の大きさを批判するだけでも、戦略投資という名前を評価するだけでも、政策の中身は見えない。内数と事項要求を除き分け、採用後の金額と実施条件、その先の成果までつながる説明を求める。583億円という差より、この接点を公開資料で確かめられるかの方が、予算の価値を判断する際に重要である。

訂正・補足(2026年10月11日):要求と決定・決算、国庫負担と制度全体の給付、投資枠の内数を区別した。約2500億円をサイバー対策単独とした説明は、医療DX・データ連携等を含む2,561億円へ修正。新規政策と自然増の二分、全費用が自動的に膨らむ、国債費は新政策へ1円も回らないという一律の説明を撤回。旧記載の想定金利・利払い額・増加率は算定原本の追加照合が必要なため今回の分析根拠から外した。

[文・構成=編集長 麻生矩暉]

出典とメモ

  • 厚労省・令和9年度予算概算要求の概要PDF2ページ(印刷1頁)の総括表と注記、5/6ページの重点要求、10/11ページの医療介護年金、13~15ページの参考資料を視認。365803/350433/15370、336872/18426/10337/10506億円の内訳、事項要求・丸め、三項目107141/32243/138263を照合。比較表は同資料を基に作成。
  • 財務省9月4日一般会計概算要求等1ページで厚労省365803、国債費366386を視認。独自計算15370/350433=約4.39%、277647/365803=約75.90%、差583億円。表示値の丸めを利用した算術で、決算や給付増加率ではない。
  • 厚労省概要の1969/4157/2561/934億円は異なる集計範囲。参考MCM2129億円との全事業対応・重複除去、全投資の最終採用、全会計純計、最終実績・現場成果は未検証。国債利払算定や過去最大の全年度比較も未完了で断定しない。独自の視点は資料比較から導く検証方法で、実施結果や現場取材を装わない。
  • 旧参照の日刊薬業、ANN配信(旧掲載先は2026年10月13日確認時点で閲覧不可)、日経・創薬、時事・国債費、日経・国債費、厚労省予算一覧、財務省年度一覧は参照履歴として保持。2026年10月11日確認。