JB News

政治・経済・海外情勢の深層を読み解くニュースメディア

特定技能の監督指導76.5% 違反率と送検を同じ物差しにしない

無銘の保護具と書類フォルダで労働安全の確認を描く概念イラスト

特定技能外国人を使用する事業場への監督指導で、76.5%に労働基準関係法令違反が認められた。厚生労働省が2026年9月15日に公表した2025年の結果である。技能実習生関係の73.2%より高いが、全国の受入れ先を無作為に調べた数字ではない。さらに、違反の対象には外国人以外の労働者も含まれる。高い率を軽く扱うべきではない一方、制度の優劣や刑事手続に進む確率へ直結させると、資料が測った範囲を超える。分母、違反の中身、是正と送検の関係を分けて読む。

1. 76.5%の分母は、監督指導した事業場である

厚生労働省の2025年監督指導結果を基に作成。違反の疑いなどを踏まえた監督対象の結果であり、全国の受入れ事業場全体の推計ではない。

2025年の対象監督指導した事業場違反を認めた事業場公表違反率
技能実習生関係13,1489,61973.2%
特定技能外国人関係8,0826,17976.5%

特定技能の率を再計算すると6,179÷8,082×100=76.4538…%で、小数第1位に丸めて76.5%となる。技能実習も9,619÷13,148×100=73.1594…%で73.2%になる。公表率の差は3.3ポイントだが、同じ条件の集団を二つの制度へ振り分けた比較ではない。

監督対象が選ばれている以上、調べていない受入れ先の状態までこの率で埋められない。違反の疑いを調べる仕事としての結果と、全国で何割の職場に違反があるかという問いは異なる。疑いが当たった精度と断定するにも、選定理由や見逃し、調査の範囲について追加情報が必要になる。

2. 事業場、法人、働く人を入れ替えない

別紙の注記では、技能実習生や特定技能外国人を使用する事業場の違反に、ほかの労働者に関する違反も含むとしている。76.5%を外国人本人の被害率や、外国人労働者の76.5%が違法な環境で働くという説明には置き換えられない。労働者数を分母とする表ではないからである。

例えば、一つの大きな職場と一つの小さな職場は、この事業場数ではそれぞれ一つだ。そこで働く人数が違っても重みは同じになる。この集計から全国の影響人数を推計するには、事業場ごとの人数と、誰に関する違反だったかを確かめる段階が足りない。

別紙の参考欄にある実習実施者や特定技能所属機関の数も、そのまま分母には使えない。法人と個々の事業場は数え方が違い、基準時点も確認が要る。一社が複数の職場を持つ場合を考えれば、法人の数で監督した事業場の数を割って全国の調査カバー率とする危うさが分かる。

3. 安全基準の違反は、ひとつの危険にまとめられない

厚労省の別紙1・2を基に作成。割合の分母は各区分の監督指導実施事業場。複数の違反は項目ごとに計上され、構成比ではない。

主な違反事項技能実習生関係特定技能外国人関係
使用する機械等の安全基準22.8%20.7%
健診結果についての医師等の意見聴取15.7%16.7%
割増賃金の支払15.6%16.3%

一つの事業場に複数の違反があれば、それぞれの項目に数える。この表を円グラフにして、違反全体のうち安全が何割と読むことはできない。特定技能の安全基準1,676事業場を監督対象8,082で割ると約20.7%だが、違反のあった6,179で割れば約27.1%になる。後者は別の問いに答える比で、公表表の20.7%を訂正する数字ではない。

安全基準を、機械の覆いや緊急停止だけの問題とも言い切れない。技能実習の別紙にあるクレーンの災害事例では、合図の取り決めと実施が問題になり、監督後に分かりやすい掲示などが行われた。これは具体的な一事例であり、全国の違反の典型や頻度を証明するものではない。

編集部が重視したいのは、装置を備えたかと、作業の順序を理解し実行できたかを分けることである。注意書きを置けば十分という判断も、外国語に直せば全て解決するという判断も早い。何が危険を生み、何を変えたかを事例ごとにたどるほうが、抽象的な違反率から対策を想像するより具体的になる。

4. 送検26件と9件から、是正率は計算できない

送検は技能実習生関係26件、特定技能外国人関係9件と公表された。旧稿は違反事業場数を足した15,798を計35件で割り、451事業場に1件と説明した。しかし算術ができることと、対応する確率を測れることは別である。この説明は撤回する。

二つの事業場集計に重なりがないか、送検の一件がどの監督対象と対応するかを本稿では確認できていない。件数と事業場数の単位も異なる。送検しなかった残りを、全部是正された職場や刑事手続へ進まなかった同一集団とみなす対応表がない。

厚労省の制度説明では、労働基準監督官は改善を求める一方、重大・悪質な違反では特別司法警察職員として捜査し、検察庁へ送検する。行政指導だから警察の捜査とは無関係、直せば必ずそこで終わるという二分法は適切ではない。送検を逮捕や有罪判決と同じ意味で使うことも避ける。

送検されなかったことは、被害がなかったことや違反の費用が修正の手間だけだったことを意味しない。是正の確認、賃金の支払、再発の有無、刑事手続の判断は別々に確かめる必要がある。35という件数の大小だけで、行政が甘い、ほぼ全て直った、いずれの結論にも進めない。

5. 率が横ばいでも、同じ職場の状態とは限らない

別紙の前年欄と比べると、技能実習の監督対象は11,355から13,148へ、特定技能は5,750から8,082へ増えている。公表違反率は技能実習が73.2%で同じ、特定技能は76.4%から76.5%である。率が近いことと、調べた件数が同じことは区別したい。

技能実習の対象増加は1,793、特定技能は2,332事業場である。対象の広がり、業種構成、相談を受ける経路が変われば、同じ率でも背景は違い得る。反対に、率が下がっても調査範囲の変更による可能性は残る。同じ職場を追跡した結果ではないため、二年の率から転職の効果や制度の優劣を判定できない。

今後の制度変更を評価する際も、名称が変わった年の率を前後で並べるだけでは足りない。新規受入れか継続中の職場か、業種、調査理由をそろえ、改善した内容を追う必要がある。転職の選択肢があることと、安全な機械操作や適切な労務管理が実行されることは、同時に検証すべき別の課題である。

独自の視点――違反の発見、是正、再発防止を三つの記録にする

編集部は、この公表を成果にも失敗にも一つの率で変換せず、三つの記録として読むことを提案する。第一は、どの範囲を調べ、何を発見したか。第二は、指摘された項目がいつ、どの方法で是正されたか。第三は、その後も改善が維持され、同じ問題が繰り返されなかったかである。今回の率が主に示すのは第一で、第二・第三を代わりに測る数字ではない。

例えば将来、同じ事業場群で安全基準の違反を再確認するなら、初回の違反項目、確認日、改善方法、再点検結果を対応させる。紙を整えた場合と危険な作業手順まで変えた場合を分ければ、制度変更の議論が現場の行動につながったかを検証しやすくなる。これは公表済みの全件追跡データではなく、編集部が考える検証の設計である。

高い発見率を放置してよいわけではない。しかし、送検されなかったから直ったと説明すれば、改善を確認する肝心の段階が消える。数字の強さを煽りに使うより、どこまで確かめ、どこからまだ分からないかを示す。それが働く人の安全を制度の看板だけに預けないための読み方である。

訂正・補足(2026年10月10日):従来の注意書きが示した監督対象の限定を維持し、外国人以外の労働者の違反も含むこと、複数項目の重複計上を明記した。「451事業場に1件」という旧概算は、監督事業場と送検事件の対応が確認できず撤回する。ほぼ全て是正された、是正すれば必ず終了するという説明も撤回。転職の制度効果、全国の違反率、典型的な危険の頻度を断定する箇所を改めた。制度移行について旧稿の2027年という記述は、下記の現行FAQでは運用開始2027年4月1日、技能実習の継続に経過措置があると説明される。

[文・構成=編集長 麻生 矩暉]

出典とメモ

  • 厚生労働省:2025年の監督指導・送検の公表(2026年9月15日)。対象の選定、監督・違反・送検の各集計を確認。表と率の再計算は本資料を基に作成。差3.3ポイントは記述的比較で制度効果ではない。
  • 別紙1:技能実習生関係、別紙2:特定技能外国人関係。割合の分母、外国人以外も含む注記、重複計上、前年値、監督事例と送検件数を確認。別紙1の1~4・6~8頁、別紙2の1~6頁の関連表・事例を画像でも点検。1,676/6,179の約27.1%と前年からの対象増加は編集部計算。資料中の事例は全件を代表する頻度ではない。
  • 厚労省:労働基準監督制度の概要。改善要求と司法警察職員としての捜査・送検を確認。個別事件の起訴・裁判結果は本稿の確認対象外。
  • 出入国在留管理庁:育成就労制度のFAQ。ブラウジング取得失敗後に公開HTMLを直接取得し、運用開始日と経過措置を確認。個別の転籍資格や受入れ適格性を判断したものではない。
  • 全監督対象の是正完了率、再発率、送検との全件対応、両区分の事業場の重なり、全国の労働者別被害率、制度変更の因果効果は未確認。三つの記録による追跡案は編集部の分析である。旧申し送りの合算値・送検比率の作図指示は採用しない。