8月の貿易赤字は約1兆1056億円、輸出額は前年同月比19.3%増、輸入額は28.0%増だった。財務省が2026年9月16日に公表した速報の数字である。輸出額が増えても赤字が広がることは矛盾しない。ただし、金額が増えたことを品物がより多く売れたことと同一視したり、輸入の伸びを全て値上がりと読んだりすれば、数量と単価を取り違える。公表された前年額で収支を再計算し、原油の数量、平均単価、季節調整値を別々に検証する。
1. 丸めた伸び率で逆算せず、前年の公表額を使う
財務省9月16日公表の速報第1頁を基に作成。百万円から億円へ換算し、前年差は編集部計算。速報という同じ公表時点の値を用い、最新確定値と混ぜない。
| 原数値・億円 | 2025年8月 | 2026年8月速報 | 前年差 |
|---|---|---|---|
| 輸出 | 84,200.78 | 100,483.75 | +16,282.97 |
| 輸入 | 87,141.68 | 111,539.82 | +24,398.14 |
| 差引 | -2,940.90 | -11,056.07 | -8,115.17 |
輸入の増加24,398.14から輸出の増加16,282.97を引くと8,115.17億円になる。これが赤字額の拡大と一致する。旧稿の前年赤字約2,913億円、拡大約8,143億円は、丸められた19.3%と28.0%から逆算したため、公表額とはずれていた。前年の値が表にある場合は、逆算値よりその値を優先したい。
赤字額の倍率は11,056.07÷2,940.90=約3.76倍となる。表にある伸率275.9%は増加率で、倍率の2.759倍という意味ではない。増えた分に元の一倍を足せば約3.759倍となる。倍率が大きくなる背景には、比較する前年の赤字の幅が小さかったこともある。
2. 9.9%は規模比較で、均衡の判定ではない
赤字額を輸入額で割ると11,056.07÷111,539.82=約9.9%になる。これは二つの金額の規模比較である。一割にすぎないからほぼ釣り合っている、心配ないという旧稿の評価は、この計算からは導けない。どの程度の差を問題とするかは、生産や所得、品目、継続期間など別の検証を要する。
速報の注記では、輸出はFOB価格、輸入はCIF価格を基本とする。簡略に言えば、輸入側には運賃・保険料も含むため、同じ価格条件の単純な物々交換の収支ではない。計上日も輸出の出港、輸入の許可等が基本で、実際の代金決済日を集めた統計ではない。
したがって、人口で割った約9,000円を、一人一人がその月に国外へ支払った純額と読むことはできない。人口を仮置きした大きさの換算にとどまるため、本稿ではその数字を主たる説明から外した。貿易統計の差額を家計の赤字、政府の借金、日本全体の所得減少と同じものとして扱わない。
3. 品目の伸率と、総額への寄与は分母が違う
主要商品表では、輸入の原油及び粗油が58.7%増、半導体等電子部品が82.1%増、電算機類が54.2%増である。しかし、伸率が最も大きい品目が総額を最も押し上げたとは限らない。小さな額が倍になる場合と、大きな額が数割増える場合を比較するには、元の金額が必要になる。
公表表の輸入総額への増減寄与度は、原油及び粗油5.1ポイント、半導体等電子部品3.1ポイント、電算機類1.9ポイントである。これらは総額の前年比28.0%に対する寄与で、個別品目の伸率とは別の列だ。三つを足しても総額の全てを説明するわけではなく、他の増加・減少品目が残る。
輸出側にも半導体等電子部品52.3%増という数字がある。ただし、同じ名称が輸出入双方で増えたことだけでは、同じ部品が日本で加工され往復したという経路まで証明できない。品目の細分類、相手国、企業間取引を確認しないまま、日本の加工利益や供給網の動きを断定することは避けたい。
4. 原油の平均単価は、数量と金額から計算できる
速報第4頁にある原油及び粗油の輸入額は11,905.19億円、数量は11,594千キロリットルである。前年比は金額58.7%増、数量3.6%増だった。速報では数量と単価を分けられないという旧稿の記述は改める。数量の列を見れば、少なくともこの品目について平均単価の変化を概算できる。
11,905.19億円を1159万4000キロリットルで割り、1キロリットルを1000リットルに換算すると、平均は1リットル約102.7円になる。前年比の二つの率を使えば、平均単価の倍率は1.587÷1.036=約1.5319、約53.2%上昇と計算できる。前年の平均は約67.0円で、前年の値は丸めた伸率からの逆算概算である。
ただし、この平均を特定油種の国際市場価格や、国内のガソリン小売価格と同じものにしない。油種・仕入れ先などの構成、円換算、輸送条件の変化も金額と数量の比に含まれ得る。円安と原油相場がそれぞれ何円押し上げたかは、この割り算だけでは分からない。
5. 増加分の9割超という分解には、順序がある
説明用に前年の金額を11,905.19÷1.587=約7,501.7億円と逆算する。増加分は約4,403.5億円となる。前年平均単価のまま数量だけ3.6%増えたと置けば、数量要因は約270.1億円。残る約4,133.4億円、増加分の約93.9%を平均単価要因として整理できる。これは数量を先に変えた条件計算だ。
金額を単価×数量と表すと、増加分には、前年単価×数量増、前年数量×単価増、単価増×数量増の三つがある。上の分解は最後の交差部分を単価側へ含める。反対に単価を先に変えるなら単価要因は約3,989.8億円で、差の約143.6億円を数量側に含めることになる。
どちらも足せば同じ増加額となるが、要因の取り分は変わる。9割超という説明には分解の順序を添え、値上がりの因果効果を厳密に測ったとしない。また、原油輸入額が貿易赤字額より大きいから原油だけが赤字を生んだとは言えない。輸入額、輸入増加分、収支悪化への寄与は別々の比較である。
6. 季節調整値は、原数値の代わりの決済額ではない
同月の参考表では、季節調整後の輸出108,919.69億円、輸入117,325.57億円、差引8,405.88億円の赤字である。前月の赤字6,812.26億円との差は1,593.62億円。前年同月比を見る原数値と、季節的な変動などを調整して前月と比べる値を分けて使いたい。
原数値の1兆1056億円と季節調整値の8406億円の差を、統計に隠れた収入や支出と解釈することもできない。税関は季節調整を直近120カ月で算出し、過去発表値と一致しないことがあると説明する。後から比べる際には、同じ更新時点の系列を使ったかも確認が必要になる。
独自の視点――赤字の大きさではなく、説明が止まる場所を見る
編集部が今回の統計から重視するのは、総額の引き算、品目別の寄与、数量と平均単価の分解という三段階を飛ばさないことである。総額では輸入増が輸出増を上回ったと確認できる。原油では数量より平均単価の変化が大きいと整理できる。しかしそこから為替だけの影響や企業の採算へ進むには、別の資料が必要になる。
例えば輸入した設備が後の生産を増やすか、原材料価格の上昇を企業がどれだけ吸収したかは、輸入額の増加という同じ数字から逆の含意を持ち得る。品目を分け、企業の生産・利益や契約条件と時点をそろえることで初めて検証できる問いだ。本稿はその効果を実測したのではなく、確かめる順序を示している。
輸出が増えたから強い、赤字だから弱いという二択を避けることは、評価を曖昧にすることではない。何が確認できて、どの説明がまだ仮説かをはっきりさせるためだ。算術と因果を分け、速報の更新に耐える比較を残すほうが、大きな数字一つで経済全体を判断するより、次の変化を読み取れる。
訂正・補足(2026年10月10日):旧稿の前年額・増加額の逆算概算を同じ速報の公表前年額へ置き換え、赤字拡大は8,115.17億円とした。速報では数量を分けられないとの説明を撤回。原油及び粗油の平均単価と増加分の分解は、丸めた伸率からの概算と順序を明記する。9.9%から均衡を評価する説明、国民一人の実際の国外支払や単一原因への読み替えを改めた。速報は後に改定され得るため、本稿は9月16日公表時点を検証対象とする。
更新(2026年10月6日):8月の貿易赤字を扱った関連記事2本の内容をこの記事に統合しました。原油の輸入額と数量、増加額の値段と量への分解、季節調整値を加え、出典のあとにあった節を本文に移しました。
[文・構成=編集長 麻生 矩暉]
出典とメモ
- 財務省:2026年8月貿易統計速報(9月16日)。第1・3・4頁の総額・前年額、価格と計上日の注記、品目別の価額・数量・寄与度を紙面でも確認。表は同資料を基に作成。百万円を100で割って億円とし、前年差・赤字倍率・規模比を編集部計算。原油及び粗油の単価・前年額・要因分解は公表済みの丸めた伸率による概算。交差項を単価側へ含む順序と反対順序を比較した。
- 税関:2026年8月の季節調整値の全1頁、算出方法の案内。8月・7月の輸出入と差引、過去値の更新を確認。前月差は編集部計算で、原数値との開きを現金移動と解釈しない。
- 税関:直近の報道発表と確速の説明。速報の概要は後続公表後には参考値との位置付け。今回の数値は後続の確速・確定値へ置換したものではない。
- 為替・油種・輸送費の個別寄与、全企業の加工経路・採算、国際収支の全内訳、実際の決済時点、後続確報との全差分は未確認。旧稿の輸出増12カ月・赤字4カ月の全月再照合は行っておらず、本文の主張に使わない。JETRO旧URLは再取得でタイムアウトしたため、数値は上記速報で確認した。数量先行・単価先行の分解は編集部の算術で因果推定ではない。














