トヨタの2026年3月期決算では、米国関税の影響が1兆3800億円と説明された。営業利益3兆7662億円へ足し戻すと5兆1462億円になる。ただしそれは関税がなかった世界を再現した実績ではなく、他の条件を固定した計算である。本稿では会社の増減要因、民間報道の業界合計、編集部計算を分けて規模を読む。従来は期間の違う値や予測を混ぜていたため、10月9日に訂正した。
1. 15%はどこから来た数字か
日米合意の自動車関税は最恵国待遇税率を含めて15%とする内容で、ジェトロの解説を出典にしている。従来の乗用車の税率2.5%と15%なら率の比は6倍だが、これを全ての車種・部品へ一律に当てはめることはできない。合意の適用時期も期の途中であり、2026年3月期を通じて最初から同じ15%だったという従来の表現は改める。税率と会社が計算した利益影響額も、異なる数字である。
2. トヨタの1兆3800億円は営業利益の何を意味するのか
トヨタの公表値は営業収益50兆6849億円、営業利益3兆7662億円で、営業利益は前期比21.5%減だった。会社は関税影響を1兆3800億円の減益要因と説明する。一方、販売、価格改定、為替、研究開発費、労務費なども増減要因に入る。売上の増加と利益の減少は同時に起こり得るが、円安や関税だけで全てを説明することはできない。
3. 「本来なら5兆円超」という計算
億円単位の公表値で37662+13800=51462と足すと、5兆1462億円となる。関税影響の比率は13800÷51462×100=約26.8%だが、分母は実際の営業利益ではない。実際の37662を分母にすると約36.6%になる。前期比21.5%減は前期の利益を分母にする別の比率であり、これらの差だけから関税以外の要因の効果は逆算できない。「本来なら」は単純な足し戻しを示す表現に限り、関税がなければ必ず得た利益とは断定しない。
4. ホンダの関税影響はなぜ縮小したのか
ホンダの4500億円は2026年3月期第1四半期の説明資料で示した通期見通しの関税影響(グロス)であり、最終実績ではなかった。通期決算の説明資料では関税の減益影響は3469億円である。4500−3469=1031億円の差は計算できるが、それをすべて現地生産や車種変更の成果と帰属させるには追加の根拠が要る。予測の改定と、実際に発生した負担を分けて読む必要がある。
5. 7社合計2兆1000億円が映す「利益の目減り」
通期の会社公表値でトヨタ13800億円とホンダ3469億円を足すと17269億円になる。ただしこれを2025年4〜12月の7社合計2兆1000億円という報道値で割ることはできない。通期と9か月の範囲が違うからだ。従来の「2社で87%」「残る5社は3000億円未満」という計算は撤回する。業界内のシェアを出すなら、7社全てについて対象期間と関税影響の定義をそろえることが先である。
6. 売上高50兆円という数字の裏側
トヨタの営業収益が50兆円を超える一方で、営業利益率は会社の資料で前期10.0%から7.4%へ下がっている。売上規模と、売上からどれだけ利益が残るかは別の問いだ。関税影響は利益の増減要因として示されており、売上を同額削った数字ではない。売上、営業利益、関税の減益影響を一つの項目にまとめずに比べることが必要である。
7. 焦点はどこに移るのか
次の決算では、まず同じ期間の実績と予測を並べる。関税の税率、対象輸入額、費用が利益へ現れる時期、会社の価格対応は同じ概念ではない。ホンダの予測4500億円と実績3469億円の差があっても、対応の巧拙だけを比較した結果とはいえない。会社の増減要因表と対象期間を追うことが、関税の数字をランキングで終わらせない読み方となる。
独自の視点――関税の影響は分母と期間をそろえて読む
トヨタとホンダの2026年3月期公表資料を基に作成。比率と合計は編集部計算
| 比較 | 計算・期間 | 意味 |
|---|---|---|
| 実際の利益に対する比 | 13800÷37662=36.6% | 公表営業利益を分母にした規模比較 |
| 足し戻した値に対する比 | 13800÷51462=26.8% | 他条件を固定した仮の分母 |
| 2社の関税影響合計 | 13800+3469=17269億円・通期 | 9か月の7社合計とのシェア比較は不可 |
例えば関税がなければ値下げや生産量、販売先も変わったかもしれない。その変化を扱わず、一つの増減要因だけを足す計算は、影響の大きさを同じ桁で示すには役立つが、反実仮想の利益を確定させる分析にはならない。会社の増減要因の説明と、関税が存在しない場合の経済全体の推定を区別しておく。
会社間の比較ではさらに、関税影響がグロスか価格対応後か、当期の見込みか実績かを確認する必要がある。今回の2社合計は同じ通期の値にそろえた足し算であり、7社の分布や各社の対応の優劣を示すものではない。日付と注記を残すことが、続報の数字が変わったときに比較できる条件となる。
増収減益の関係も検算できる。億円単位の資料で、前期の利益率は47955÷480367×100=約9.983%、当期は37662÷506849×100=約7.431%となる。資料の10.0%と7.4%はその丸めた表示だ。売上が5.5%増えても、売上から残る利益の割合が下がれば、利益は減り得る。ここで営業収益の約5.5%増と利益率の約2.552ポイント低下を足したり引いたりして減益率を出してはいけない。
関税以外の要因を差額として整理すると、読み方はさらに明確になる。前期からの減益額は47955-37662=10293億円で、会社が示す関税影響13800億円より小さい。これは矛盾ではない。減益要因と増益要因が同時に働き、差し引きした結果が最終的な増減額になるためだ。公表表の関税以外をまとめた差額は、-10293-(-13800)=+3507億円となる。ただし、関税以外の全要因が一つずつ改善したという意味ではない。
増減要因の図では、為替変動-1950億円、原価改善の努力-1200億円、営業面の努力+7100億円、諸経費の増減・低減努力-20300億円、その他+6057億円を並べている。合計は-10293億円で、公表された減益額に一致する。関税影響-13800億円は諸経費-20300億円の内数であり、図の合計にもう一度加えれば二重計上になる。項目名に「努力」とあっても、表示された寄与が必ずプラスとは限らない点にも注意したい。
編集部がこの差額を使う目的は、対策が関税を何割取り返したかを採点することではない。+3507億円には、営業面の改善だけでなく、別の費用増や評価損益などの相殺も含まれる。会社の分類に沿って寄与を足せることと、各行動の効果を独立に測定できることは違う。次の決算を比べる際も、関税の行だけでなく、同じ期間の増減表全体を残すほうが、負担が増えたのか、別の要因が和らげたのかを追いやすい。この方法は業績資料を読むための検算であり、株価や売買判断の予測ではない。
関係式は「営業利益=営業収益×営業利益率」である。当期と前期の比を取れば、利益の比は売上の比と利益率の比の積になる。丸め前の比を使うと(506849÷480367)×[(37662÷506849)÷(47955÷480367)]=37662÷47955で、約21.5%減を再現できる。数字をどの分母で割るかを残すと、増収なのに減益という見出しも矛盾ではなく計算上の関係として理解できる。この検算は原因の内訳を推定するものではない。
訂正(2026年10月9日):ホンダの4500億円を最終実績としていた記述を修正し、通期資料の3469億円へ変更した。通期と4〜12月を混ぜた2社87%の計算を撤回した。26.8%の分母は実際の営業利益ではなく関税影響を足し戻した値であり、実際の利益に対する比率約36.6%と区別した。
[文・構成=編集長 麻生 矩暉]
出典とメモ
2026年10月9日、トヨタの2026年3月期決算説明資料6〜7ページ、ホンダ第1四半期資料17ページの見通し、ホンダ通期説明資料8ページの実績を照合した。比較表はこれらを基に作成した。
追加照合(2026年10月11日):トヨタ決算説明資料の6ページ(連結決算要約)・7ページ(営業利益増減要因)を紙面で確認した。増減要因の五項目の合計と関税が諸経費の内数であることを照合。関税以外の差額+3507億円は公表値からの編集部計算で、全要因の改善、価格対応の成果、関税がなかった場合の実際の利益を示すものではない。














